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中谷潤人が映画『ロッキー』の名所で受けたレッスン 元ヘビー級王者が現役時代に味わった苦難には「哀しい気持ちになった」 (2ページ目)

  • 林壮一●取材・文 text & photo by Soichi Hayashi Sr.

 当時のWBCはドン・キングと密な関係にあったが、三十数年が経過し、あまりにも失礼だと感じたらしくティムにベルトを贈った。だが、それは中谷が腰に巻く重量感のある栄誉の象徴とは似ても似つかず、壊れかけのオモチャのような一品だった。それでも、ティムは元世界ヘビー級王者の証として、リビングにグリーンの"勲章"を飾っているのだった。

 この時、中谷は両手でベルトを持ち、無言のまま十数秒間、手元を見つめていた。

【突然始まったワンポイントレッスン】

 レンタカーのエンジンを入れ、ルート95を南西に向かう。この日、最初の訪問地はフィラデルフィア美術館の階段だった。観光客が世界の津々浦々から、映画の舞台として名を馳せる「ロッキー・ステップ」にやってくる。

ロッキーの銅像の前で、ベルトを持って記念撮影するティム(左)と中谷ロッキーの銅像の前で、ベルトを持って記念撮影するティム(左)と中谷この記事に関連する写真を見る

 もともとティムは誰とでも陽気にコミュニケーションを取る男だが、いつになくに高揚していた。「ロッキー・ステップス」を行き交う人に、片っ端から声をかける。

「ロッキーが好きなら、ボクシングに興味があるよね? ならば、彼、ジュントの名は絶対に覚えておいたほうがいい。すでに4本の世界タイトルを獲得しているが、モハメド・アリや、マイク・タイソンと同レベルのチャンピオンになる逸材だ。来年5月にトーキョー・ドームでメガ・ファイトを控えている。実に素晴らしい選手なんだぜ!」

 といった具合だ。

 統一戦を終え、休暇としてフィラデルフィアにやって来た中谷だが、その熱量に面食らいながらも終始、微笑んでいた。元世界ヘビー級チャンピオンから説明を受けた面々は、その場で「Junto Nakatani」を検索し、YouTubeで試合の模様を目にする。多くが、記念撮影を求め、中谷のインスタグラムをフォローした。

 映画『ロッキー』の代名詞ともなった階段を上る前、最重量級で2度、世界王座に就いたティムは中谷に訊ねた。

「チャンプ、キミにはきちんとしたトレーナーがいるのだから、俺がどうこう言うのは避ける。でも、ひとつかふたつ、アドバイスしたい。いいか?」

 間髪を入れずに中谷がうなずく。ティムはロッキー・バルボアが拳を突き上げた階段の上で、中谷と向かい合ってファイティングポーズを取ると、言った。

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