中谷潤人が映画『ロッキー』の名所で受けたレッスン 元ヘビー級王者が現役時代に味わった苦難には「哀しい気持ちになった」 (3ページ目)
ロッキーの銅像を背に、中谷(左)にレッスンを行なうティムこの記事に関連する写真を見る
「IBF王者との統一戦では、ガードが下がった局面があった。脇を絞って、もっと高くしておくべきだ。ボクシングは、絶対に打たせちゃダメなんだ。たとえ空振りしても、打った後にバランスを崩さないように」
新旧2人のチャンピオンは、午前7時を少し回った曇り空の下、3分足らず向かい合った。ティムは中谷の肩の位置、足の運びを指摘した。
それまで、笑顔を絶やさなかった両者の表情が真剣になる。特に目が、闘う男のそれになった。プロボクシングのリングで生き抜いてきた者ならでの、鋭い視線をぶつけ合う。
「That's Right! Beautiful!!」
ティムはそう告げ、ワンポイントレッスンを終えた。
【現役時代に苦しんだティムの悲哀と優しさ】
中谷と接していて、いつも驚かされるのは彼の集中力と貪欲さだ。私は、ティムの現役時代、彼の次の世代でヘビー級王座を統一したレノックス・ルイス、バルセロナ五輪のライト級金メダリストとしてプロに転向し、6階級を制したオスカー・デラホーヤ、50戦全勝27KOの戦績を誇るフロイド・メイウェザー・ジュニア、祖国フィリピンを離れて本場、アメリカで伝説のファイターとなったマニー・パッキャオらを取材してきたが、ボクシングに対する姿勢で述べるなら、中谷は他の名チャンピオンたちを凌駕している。
レッスンを終えてグータッチする中谷(左)とティムこの記事に関連する写真を見る
WBC/IBFバンタム級チャンピオンは、ティムの助言を聞き漏らすまいと耳を傾け、元ヘビー級王者の指導を体に染み込ませようとした。
「今までにない視点なので、とても新鮮です。純粋に楽しいですよ。彼のベルトを触った時、哀しい気持ちになったのは事実です。プロボクサーが商品のように見られ、かつ、扱われてしまう。そういった現実があることを感じました。
以前、ティムは『ロッキー』の銅像を見ながら『映画は気楽でいいな。本物のボクサーの苦しみなんてわかっちゃいない』って発言したんですよね。やっぱり、自分がやりたいこと、進む道を満足いくようにやっていくことが大事だと考えさせられました。彼の言葉は重いですね。苦しんだからこそというか......」
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