井上尚弥がPFP2位を維持した理由とは 3度目の1位返り咲きへのシナリオ (2ページ目)
【ウシクはじめPFP上位常連たちの今後の展望】
今後、PFPランキングに焦点を当てると、日本のファンの注目は井上が1位に復帰する可能性に絞られるのではないだろうか。
井上は2022年6月に行なわれたノニト・ドネア(フィリピン)との再戦後、2024年5月のネリ戦後に2度にわたって同ランキングの1位に浮上。"全階級を通じて最高のボクサー"として認められる初の日本人選手になった。ところが、その2度とも、直後に世界クルーザー級&ヘビー級の2階級4団体統一制覇王者オレクサンデル・ウシク(ウクライナ/23戦全勝14KO)がすばらしいパフォーマンスを見せ、井上を抜いて1位に浮上。井上はPFP1位としては短命に終わっている。
ただ、近い将来、井上がNo.1に戻っても不思議はない。7月19日、英国ウェンブリーで行なわれる世界ヘビー級4団体統一戦が最初のカギとなる。ここでWBA、WBC、WBO王者のウシクがIBF王者ダニエル・デュボア(イギリス)に敗れるようなことがあれば、押し出されるような形で"モンスター"が再浮上するだろう。
ウシクは191cmという現代ヘビー級選手としては小柄な体躯ながら、ほとんどの試合を敵地で行ない、より大柄なボクサーを相手に勝ち続けている。その偉大さに、疑問の余地はない。そんなウクライナの拳豪も38歳となり、そろそろ衰えが見えても不思議ではない。デュボアには2023年8月の初対決で9回KO勝ちを収めているが、以降、英国人は3連勝と好調。27歳と年齢的にも今が旬のデュボアは前戦ではアンソニー・ジョシュア(英国)を5回KOで下す殊勲の星を挙げており、ウシクとの再戦にも自信を持って臨んでくるはずだ。
また、現時点でウシク、井上の背後の3位につける4階級制覇王者テレンス・クロフォード(アメリカ)も近々「冒険マッチ」を予定している。
スーパーライト級からスーパーウェルター級までを制したクロフォードは9月、さらに2階級を上げてスーパーミドル級の4団体統一王者であるカネロへの挑戦が内定。41戦全勝(31KO)の成績を積み上げてきた黒人王者は、ここで久々に"不利"の予想でリングに立つことになりそうだ。
クロフォードの技術、スピード、身体の強さは健在なこと、最近のカネロは絶好調には見えないことなどから、"クロフォードには十分に勝機がある"と見るメディア、関係者は少なからず存在する。ただ、クロフォードの方も昨年8月、スーパーウェルター級での初戦ではWBA同級王者イスラエル・マドリモフ(ウズベキスタン)に少々苦戦した。その試合後、また1年以上も試合から遠ざかり、37歳にして、さらにふたつも上の階級で実績ある王者に勝ち切るのは容易なことではないはずである。
もちろん井上自身が9月のWBA世界スーパーバンタム級暫定王者ムロジョン・アフマダリエフ(ウズベキスタン)戦に好内容で勝つのが絶対条件。それを成し得たとすれば、トップ3のライバルたちの戦い次第で"モンスター"がPFP1位に戻る可能性は存在する。それどころか、32歳にしてついに長期政権を開始しても驚くべきではないのかもしれない。
まずは7月19日、ウシクの最新試合が楽しみだ。その後、それぞれ強豪との対戦に臨む井上、クロフォードの出来いかんでまたランキングは変動しかねない。これらの名王者たちが直接戦うことはもちろんないにしても、世界最高のボクサーたちのパフォーマンスを比較しながら楽しめることも、現代のボクシングファンの喜びのひとつであり続けることは間違いない。
著者プロフィール
杉浦大介 (すぎうら・だいすけ)
すぎうら・だいすけ 東京都生まれ。高校球児からアマチュアボクサーを経て大学卒業と同時に渡米。ニューヨークでフリーライターになる。現在はNBA、MLB、NFL、ボクシングなどを中心に精力的に取材活動を行なう
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