吉成名高がムエタイの変化と受け継がれる本質を語る「無事にリングを降りられるようにという祈り」 (2ページ目)
【ムエタイの伝統と変化の狭間】
――吉成選手が小学生の頃にタイで見て魅了されたムエタイと、現在のムエタイではルールやファイトスタイルが変わりつつありますよね。
「そうですね。ONEのムエタイでは、よりアグレッシブな戦い方が求められるようになって、選手が序盤から積極的に攻めるスタイルが主流です」
――伝統的なムエタイでは、5ラウンド制の中で1ラウンド目はまだ「賭け」が成立するので、選手はお互い様子を見るとか、ポイント差が大きく開いた場合は、5ラウンド目を流すといった暗黙の了解がありました。こうしたムエタイ独自の文化が変化しつつあることについては、どう感じていますか?
「時代の流れとして仕方がない部分もありますが、寂しいというか『違うな』と感じるところもあります。ただ、戦い方が変わっても、ムエタイの本質は変わらないと思っています。僕が憧れたのは、観客の大歓声やポイントをめぐる細かい攻防といった要素もありますが、いちばんは、相手に対するリスペクトや感謝の気持ちです。あれだけ激しく戦っていた相手とも、試合が終わればお互いを称え合う。そこがすごく好きな部分ですし、その精神こそが、ムエタイの魅力だと感じています。その本質はいまも変わっていないと思います」
――最近では、割愛されることもある試合前のワイクルー(戦いの舞い・儀式)には、そういった特別な思いが込められているんですよね?
「ワイクルーには、指導してくれた恩師への感謝の気持ちや、お互い無事にリングを降りられるようにという祈りが込められています。ムエタイの精神を象徴する大切な時間だと思います」
――ムエタイでは、毎月のように試合をする選手もいるほど試合間隔が短いですよね。そのため、お互いにケガをしない、させないという意識もあるのでしょうか?
「もちろん試合なのでお互い倒しにはいきます。ただ、相手が戦意を失ったり、負けを受け入れたと感じた時には、必要以上にダメージを与えるような攻撃はしないですね。そこもムエタイならではですね」
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