「モンスター2世」19歳・坂井優太 井上尚弥の言葉で覚悟を決めた父の二人三脚の世界王者への道 (3ページ目)
【父・伸克さんへの感謝と井上父子への憧憬】
父・伸克さん(右)との絆は、深いものがある photo by Yamaguchi Hiroakiこの記事に関連する写真を見る 伸克さんは練習方法を独学で学び、英才教育を施したわけではない。むしろ、ボクシングを介して、息子とコミュニケーションを取ってきた。当初はオリンピアンを育成するつもりもなければ、ましてプロボクサーに育て上げるつもりもなかったという。
「ボクシングは教材のひとつでした。人間形成の一貫です。試合に勝つこと、負けることで学べることもありますから。僕が勧めたことをいまも続けているので、息子に必要とされるうちは付き合っていきたいですね」(父・伸克さん)
父の思いは、息子もひしひしと感じている。父子鷹の絆は強い。2歳の時に両親が離婚し、男手ひとつで育てられてきたのだ。子どもはひとりではない。3人姉弟。父は仕事を終えると、台所に立ち、栄養バランスを考えながら料理もつくってくれた。幸先よくプロキャリアをスタートさせた坂井は、昔を振り返れば、感謝しかないという。
「父ひとりで子ども3人を育てるのは大変だったと思います。普通の家のように愛情を注ぐのは難しかったかもしれないけど、ボクシングを通じて、父から多くのことを学びました。一緒に悔しい思いをしたし、うれしい思いもしてきたので。お互いが信じていれば、父子鷹でも問題ない。言葉では説明できない信頼関係がありますから」
理想の父子鷹は、間近で見ている。5月6日、熱狂の渦に包まれた東京ドームで井上尚弥と父の真吾さんがリング上で抱き合って喜ぶ姿には胸が熱くなった。
「僕らもあんなふうに成功をつかみたいなと思いました」
井上尚弥はまだ雲の上の存在ではあるが、いつまでもそのままでいるつもりはない。坂井はまっすぐと前を向き、はっきり言う。
「絶対に超えていきたい。超えられるかどうかわかりませんが、プロとして、その気持ちは持っていないとダメだと思っています」
野心を隠さない19歳の言葉には、力がこもる。1年前に井上から譲り受けた黒いグローブはすっかり使い込まれ、そろそろ替えどきのようだ。「これで、いつも練習しているので」とはにかんでいた。モンスターに、ただ憧れているだけではない。坂井親子の大きな挑戦は、まだ始まったばかりだ。
(終わり)
【Profile】坂井優太(さかい・ゆうた)/2005年5月27日生まれ、兵庫県出身。身長173cm。幼少期から父・伸克さんの手ほどきを受けながら独学でボクシングを始め、西宮香風高に入学すると1年目から2年連続インターハイ制覇など高校6冠、2年時には世界ユース選手権優勝を果し、トップアマとしての地位を築く。大橋ジムからの誘いをきっかけに、プロ入りを決断。2024年6月25日に2回TKOでプロデビューを果たした。
次戦は10月17日(木)、後楽園ホールにて「Lemino BOXING PHOENIX BATLLE 123」8回戦vs.対戦相手未定。
著者プロフィール
杉園昌之 (すぎぞの・まさゆき)
1977年生まれ。サッカー専門誌の編集記者を経て、通信社の運動記者としてサッカー、陸上競技、ボクシング、野球、ラグビーなど多くの競技を取材した。現在はジャンルを問わずにフリーランスで活動。
「モンスター2世」坂井優太フォトショット
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