「チーム200キロ」優宇が語るプロレスデビューまでの苦難 嫌がらせを受けた柔道時代、別の道も断念して辿り着いたリング (4ページ目)

  • 尾崎ムギ子●取材・文 text by Ozaki Mugiko

 調教師はあきらめ、陸の動物のほうに方向転換しようと、全国的に人気のチンパンジーを飼育していたテーマパークにお世話になった。しかし、優宇がショーのアシスタントをしていると、そのチンパンジーは毎回のように激しく威嚇してきた。

「動物になつかれることはあっても、トレーニングする立場になるとめちゃくちゃ舐められるんだと思った。いろいろ考えて、最終的にはダイビングのインストラクターになりました」

 その後、子宮の病気を患って実家に戻った時、幼馴染たちに誘われて新木場1stRINGで開催されたDDTビアガーデンプロレスを観戦。それがきっかけで、DDTのプロレス教室に通い始めた。リングで練習をしているうちに、プロレスラーになりたかったことを思い出し、練習生の募集要項を最初に見たのがセンダイガールズプロレスリングだった。

「でも、当時は犬を飼っていて、どうしても犬と離れるのが嫌だったんです。あと高木(三四郎)さんが『小学生の時にDDTを観に来てたあの子がプロレス教室にいるんでしょ? 絶対、東京女子(プロレス)に連れてきて』みたいな感じになって。犬にも会えるということで、東京女子に入門しました」

 2015年5月に練習生となり、2016年1月4日、後楽園ホール大会でデビュー。のどかおねえさん(天満のどか)を相手に、腕極めケサ固めで勝利した。

 そこからの快進撃はすごかった。同年の東京プリンセスカップに初出場すると、8月に行なわれた決勝で中島翔子を下し、デビューから無敗のまま優勝。翌月にはTOKYOプリンセス・オブ・プリンセス選手権で、シングル戦無敗のまま初のタイトルに挑み、山下実優を下して第2代王者となった。

 デビューから1年半、無敗の状態が続いた。無敗のままチャンピオンにもなった。しかし、プロレスは敗者に光が当たるスポーツ。優宇にはそういった意味での"光"が当たらなかった。

「チャンピオン恐怖症でした。『無敗のチャンピオン』と言われると、面白みがないんじゃないかなって。自分と対戦する選手ばっかり応援されるし、私だって応援されたかった。その時が本当につらくて......」

 優宇は当時を振り返り、涙をこぼした。

 2017年6月、プリンセス・オブ・プリンセス王座5度目の防衛戦で、坂崎ユカに敗北。デビュー以来、無敗だった戦績に初黒星がついた。それでも、彼女のコンプレックスはどんどん肥大化していった。

(後編:強いゆえに悩んだ時期も。目指すは、男子選手が「こいつなら打っても壊れないな」と思ってもらえる体>>)

【プロフィール】
●優宇(ゆう)

1991年7月19日、千葉県船橋市生まれ。小学校5年生の時、DDTビアガーデンプロレス観戦をきっかけにプロレスラーを志す。受け身の練習のために始めた柔道で、インターハイ、国体、ジュニアオリンピック出場など、輝かしい成績を残す。2016年1月4日、後楽園ホール大会でデビュー(対のどかおねえさん)。9月、山下実優を下し、TOKYOプリンセス・オブ・プリンセス王座を獲得。2018年12月、東京女子プロレスを退団。2019年4月、プロレスリングEVEの所属となる。2020年10月、橋本千紘とのタッグ「チーム200キロ」でセンダイガールズワールドタッグチームチャンピオンシップ王者となる。2022年11月13日、EVEインターナショナル王者となり、現在も防衛中。156cm、100kg。X:@yuu_tjp

【大会情報】
小橋建太プロデュース興行『Fortune Dream9』
■日時:6月12日(水)17:30開場 18:20試合開始
■場所:東京・後楽園ホール
■対戦カード:橋本千紘&優宇vs. 里村明衣子&彩羽匠

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著者プロフィール

  • 尾崎ムギ子

    尾崎ムギ子 (おざき・むぎこ)

    1982年4月11日、東京都生まれ。上智大学外国語学部英語学科卒業後、リクルートメディアコミュニケーションズに入社。求人広告制作に携わり、2008年にフリーライターとなる。プロレスの記事を中心に執筆し、著書に『最強レスラー数珠つなぎ』『女の答えはリングにある』(共にイースト・プレス刊)がある。

【写真】「チーム200キロ」女子プロレスラー・優宇フォトギャラリー

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