井上尚弥のパンチングパワーの秘密 八重樫東&鈴木康弘トレーナーが驚嘆する「力と型」
井上尚弥のフィジカル面と技術面における強化を2年前から指導する八重樫東、鈴木康弘の両トレーナーは、日常的に「怪物」の変化をつぶさに目にしている人物だ。ある意味、対戦相手以上にその凄みを間近で感じ取っているともいえるが、ふたりから見た井上尚弥の凄さは、どのような部分にあるのか。
「井上尚弥・解体新書」後編
「パンチ一発や腕立て伏せ1回にしても、ひとつも無駄にはしたくない」と井上この記事に関連する写真を見る
【パンチングパワーの秘密】
「スーパーバンタム級でも井上尚弥のボクシングをさせること」。これがいちばん大切なのだと八重樫東トレーナーは言う。
「勝つためのフィジカルを作る=体を大きくする、当たり負けしない、ことじゃないんです。ボクシングはコンタクト競技ですが、接触しない時間の方が長い。そこでフィジカルを(うまく)使えばいいんです。尚弥はジャブがうまい相手にも(ジャブの)差し合いで負けない。彼の足があれば、出入り(相手との距離を詰めたり離れたりすること)できるスピードがあるし、当てる感覚もある。そこのフィジカルを強くすればいい。出入りの連動性やストップ&ゴーのスピード。それが強いのが井上尚弥ですから」(八重樫トレーナー)
モデルは、あのマニー・パッキャオ(フィリピン)。フライ級からスーパーウェルター級までの10階級を股にかけた6階級制覇の歴史的王者だ。パッキャオは、階級を上げていってもスピードを失うどころか逆にアップさせ、なおかつ強打もいかんなく発揮した。そして、井上尚弥もまた、まったく同種のボクシングを体現している。
今年初め、スーパーバンタム級に階級を上げることを機に「尚弥の強みと弱みをしっかり認識するため」、八重樫トレーナーは知己のアスリート研究チームに尚弥の『走る』『体を捻る』、『ダッシュする』等のフォーム映像を基に動作解析を依頼。そこで驚異の事実が判明したのだという。
「尚弥がなぜ強いパンチを打てるか。例えば、硬いゴムやチューブを捻っていくと反対側にブルンって反動で回りますよね。その動きが尚弥の体の中で起こっているそうなんです。具体的に言うと、足からの連動です。床をドーンって踏み込んだ力を足首、ふくらはぎ......と上にどんどんパワーが移動していく過程で、回転する筋肉が関節に突き当たるごとに逆回転を起こして大きな渦となっていき、最終的に上体から拳へと巨大化したパワーが伝わっていく。
ひねる、ねじる。これは"回旋競技"のボクシングの体の使い方としてとても大切ですが、その力こそが彼のパワーの源なのです」
独特のひねりによる力の伝達で最大のパワーを生み出しているこの記事に関連する写真を見る
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プロフィール
本間 暁 (ほんま・あきら)
1972年、埼玉県生まれ。専門誌『ワールド・ボクシング』、『ボクシング・マガジン』編集記者を経て、2022年からフリーランスのボクシング記者。WEBマガジン『THE BOXERS』、『ボクシング・ビート』誌、『ボクシング・マガジン特別号』等に寄稿。note『闘辞苑TOUJIEN』運営。