東京女子プロレス・上福ゆき「自分は客寄せパンダでいい」 港区女子からリングで取り戻した自尊心と周囲への感謝 (3ページ目)

  • 尾崎ムギ子●文 text by Ozaki Mugiko
  • photo by 林ユバ

【プロレスで取り戻した自尊心】

 2020年11月7日、TOKYO DOME CITY HALL大会にて、空位となっていたインターナショナル・プリンセス王座の新王者決定トーナメントが行なわれた。決勝戦で上福は乃蒼ヒカリと対戦。かつてないほどの激しい闘いを繰り広げ、新王者に輝いた。この時、解説を務めたプロレスライターの須山浩継氏は、上福のことを「短期間で、プロレスの本質を理解できた人」と評した。

「自分主義じゃダメだよなとは思います。プロレスをやればやるほど、周りへの感謝が増すんですよ。自分が強くなったとか、カッコよくなったとかは、1mmも......2mmくらい思ってて(笑)。でも、プロレスは相手あってのスポーツ。お客さんの存在も大きいし、マジで周りのお陰だと思ってます」

 2021年10月9日、大田区総合体育館大会にて、東京女子プロレス初参戦の朱崇花と組み、角田奈穂&小橋マリカと対戦して勝利した。朱崇花とはもともと友だちで、ずっと「組みたい」と言い続けた念願のタッグであり、ド派手な入場も話題を呼んだ。

 2022年3月19日、東京女子プロレスは初の両国国技館大会を開催。上福にとっても、初の両国国技館。胸にこみ上げるものがあったが、「すごい」「嬉しい」といった言葉は使わなかった。

「初期の先輩たちとか、最初から見ているスタッフさんのほうが、グッとくるものがあったはずなので、私がそこで東京女子の歴史を語るのは違うと思ったし、安易な言葉は発信しないようにしました。そっと見届けようと思って見てましたね」

 9月4日、名古屋国際会議場大会にて、東洋盟友(トウヨウメイト/同じ東洋大学出身で、同級生の桐生真弥と組んだタッグチーム)は「令和のAA砲」(赤井沙希&荒井優希)が持つプリンセスタッグ王者に挑戦。その2日前、人種差別を受けるなど苦しいアメリカ時代から共に過ごした愛犬・ランディが15歳で息を引き取った。タイトルマッチは、ランディの火葬の日だった。

「心の余裕がなくて、『真弥を引っ張っていけないな』と思っていたら、真弥もそれを感じてなのか、頑張って力強くいようとしてくれた。『初めて真弥に頼ったな』と思いました」

 ランディが余命宣告を受けた5月、上福はブログにこんなことを綴っている。

「あなたが嫌いなあなたは誰かにとっては必要な存在だよ。もしかしたらそんな人があなた自身を好きにさせてくれるかもしれないよ。自己嫌悪に陥って涙を流すのではなくて、誰かのためのうれし涙や誰かを想ってきれいな涙を流してください」
 
 上福自身も、子供の頃から身長コンプレックスに悩み、人見知りで誤解されやすい性格に悩み、何かに打ち込めない自分に悩み続けてきた。それでも彼女は、プロレスを通して周囲に応援されることで、自尊心を取り戻していった。今の上福は、他人のために涙を流せる心の美しい人に違いない。

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