「何もしないで勝つ」。柔道・高藤直寿は金メダルのために自らのスタイルを変えた (2ページ目)
「リオ五輪の時は、投げる技をいくつも持っていて、全方向に1本とれる選手だと言われていました。1本をとる柔道はすばらしいですし、みんなが目指すところですが、五輪では勝つことが一番大切なんです。リオでそれがよくわかったので、東京五輪では勝つために指導のとり方とか、試合時間の使い方とか、何もしないで勝つ方法を磨いてきました」
何もしないで勝つ──。
まるで「孫子の兵法」のようだが、ある意味、それは最強だ。だが、「高藤は豪快な技で勝つ」「高藤は見たことがない技で勝つ」と言われ、技のデパートのような選手だ。そういう選手が技を出さずに勝つというのだ。子どもの頃から磨いてきた独自のスタイルを変えることについて、抵抗はなかったのだろうか。
「トップ選手はこだわりがあるので、スタイルを変えるのは簡単ではないですけど、僕は以前、(ルールで)足取りが禁止になって、そこで一度、自分の柔道を大きく変えた経験があるので抵抗はなかったです。技を出さないで勝つためには、トレーニングはもちろん、我慢するというメンタル面から強化していく必要があるんですけど、それは1年や2年ではできない。4年間で考えて、プラス1年で磨き上げてきましたが、僕はこのスタイルに変えたことで勝率が上がってきたので変化を楽しめました」
得意技は相手も当然研究してきている。それでも強引にいけば返されたり、隙を狙われたりして負けてしまう場合もある。高藤は、五輪で勝つためにリスクを排除し、「勝利の方程式」のようなものを作り上げてきた。
「投げて勝つのは気持ちいいですし、ゴールデンスコアになれば早く終わらせたいから投げたくなるんですよ。でも、そこで我慢する。自分で考えて攻略本を作り、そのとおりに機械的に動かすというのを意識していました。ゲームの攻略本と同じで、手順を間違えなければ勝てるんです」
金メダルの攻略本は、東海大相模中時代からの先輩で、現在の付き人と一緒に考えた。その柔道を東京五輪の本番の舞台で貫きとおした。ツイッターでは、「高藤、投げろよ」「おい、もう終わったのか」等々の声が上がった。
「今回は、指導の累積とか、柔道をあまり見ない人からすると、なんかよくわからない勝ち方のように見えたと思います。だから、いろんな声が上がったのだと思いますが、僕のなかでは計算どおりに進んだ1日だったんです。これがリオ五輪から磨いてきたものだったんです」
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