「俺様柔道が好きです」。病床の父・古賀稔彦が迷う息子・玄暉に送ったメッセージ (3ページ目)

  • 粂田孝明●取材・文 text by Sportiva
  • photo by AFLO

現役引退後は後進の指導に全力を傾けた古賀稔彦さん現役引退後は後進の指導に全力を傾けた古賀稔彦さん そんな時に父から、「負けたらどうしようと思うことは、負の感情なので、その感情は今すぐ捨てなさい。相手との具体的な戦い方、どんな技をかけるかとか、どう投げるかとか、一つ一つの試合をしっかりとイメージすることに意識を向けなさい」とアドバイスをもらいました。そう意識することによって、気持ち的に楽になり、負の感情がなくなっていきました。

 あとはケガをした時の考え方です。父はバルセロナ五輪直前に大ケガを負いながらも金メダルを獲得したので、その経験からのアドバイスだったと思いますが、「ケガをして出場するのを迷っているようなら、出場しないほうがいい。相手は死に物狂いで大会に臨んでいるので、厳しい戦いになった時に、気持ちで相手と差が出てしまう。たとえケガをしていたとしても、出場するからには優勝するだけの気持ちを作り上げていく必要がある」とよく言われました。

 それ以外では、「柔道家としての前に、人として成長してほしい」とも言っていました。古賀塾の畳には『礼・心・技・体』と書かれています。『心・技・体』は柔道家としての在り方になりますが、『礼』をあえて付け加えることで、まずは人としての礼儀が大前提にあることを意味していると思います。

 父の病気を知ったのは、2020年3月頃、手術をする少し前です。ただ当時は漠然と「父は必ず治る」と思っていました。父が病気になったという実感はなく、大きな不安もありませんでした。

 父は病気が進行しても、辛い気持ちを隠していたんだと思います。弱気な発言も一切なかったので、最後まで父が亡くなるとは思っていなかったし、それに向き合いたくない自分もいました。

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