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勝ち負けに執着しなかった伊調馨が、
「勝ち」にやりがいを見出した (2ページ目)

  • 宮崎俊哉●取材・文 text by Miyazaki Toshiya
  • 佐野美樹●撮影 photo by Sano Miki

 伊調が常々語ってきた「目指すのは説明のできるレスリング」の原点は、ここにある。

 リオオリンピック後、警視庁レスリングクラブのコーチを外された田南部は第六機動隊での業務に就いているため、日体大の外部コーチとして伊調を指導する時間は限られている。伊調が望むのは、自分のためにパワハラ問題を告発した田南部がリオ以前の状況に戻れること。すなわち、「日常的に自分を指導し、ランニングでも、ウエイトトレーニングでも追い込んでくれる」ことだ。

「日体大にお世話になっていて、学生たちと練習させてもらっています。ただ、自分が上の立場になってやっているので、体力を維持することはできても、自分を引き上げてくれる人がいない。向上という意味では難しい。

 今は夕方からのマット練習よりも、朝練でのランニングやトレーニングのほうが大事。そこをしっかりして体力を上げていかないと、レスリングが活きない。体力があれば、本格的な練習のなかで覚える新しい技にもつながり、自分のレスリングとして組み立てられる。女子オープンでの反省点である『腰が高い』『前へ出られない』も克服できると思います」

 復帰にあたって、伊調は何度も「何%ぐらい戻っているか」と問われ、「何が100%かわからない」と前置きしつつ、「60~70%」と答えてきた。だが、目指しているのは、戻すことではなく「自身最高」だ。

「戻していく段階が必要なのもわからなくはないけど、新しくつくるほうがいい。リオでは最低の戦いをしてしまいましたが、それよりもっといいときを知っている人が驚くぐらい、もっと上に行ける可能性を自分は持っている。年齢は感じない。今はまだ殻の中にいるけど、この殻を破れたら、120%でも150%でも行けると信じています」

 そして、「いつか、『今回の騒動がさらなる成長のチャンスとなった』と言える日が来るように。きっと来ると思います」と言った。

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