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新たな戦いの始まり。山中慎介の「最終章」が幕を開ける

  • 水野光博●取材・文 text by Mizuno Mitsuhiro  photo by AFLO

 山中慎介、キャリア最後の4ラウンド――12分間になる可能性は十分にあった。

 9月22日に行なわれたWBC世界バンタム級タイトルマッチで、王者・山中慎介(帝拳)と前WBA同級スーパー王者のアンセルモ・モレノ(パナマ)が激突。8ラウンド終了時のスコアは、ひとりが77−75、ふたりが76−76をつけ、モレノが優勢だった。

山中慎介(左)とアンセルモ・モレノ(右)との「バンタム級の最強決戦」は判定までもつれこんだ山中慎介(左)とアンセルモ・モレノ(右)との「バンタム級の最強決戦」は判定までもつれこんだ 試合1ヶ月前、山中のインタビューをしている時だった。偶然、住んでいる場所が近いことがわかると、「あの店、知っています? 美味しいですから行ってみてください」と、山中がある居酒屋をすすめてくれた。

 その後、インタビューは雑談へ。山中は不満を吐き出す口調ではなく、淡々と、「ボクサーではない人にはわかってもらえない感覚」について語り出した。

「早いラウンドで勝ったりすると、『この調子なら、あと何試合だってできますね』って言ってもらえたりするんです。でも、それはボクサーの感覚としてちょっと違う。1ラウンドでKOしようが、何ラウンドで勝とうが、ボクサーは試合が決まった日からトレーニングして、減量して、来る日に備える。その間、疲れがピークだったり、減量の関係で身体が動かない時期があって、スパーリングパートナーにボコボコにされたりした夜なんかは、不安に襲われるんです。『次は負けるかもしれない......』って。

 そんな不安や恐怖をも乗り越えて、リングに上がる。それは、想像を絶する世界というか、あと何度、この試練に耐えられるか......。今、32歳で、たぶん現役生活は5年と続かない。それ以前に、もし一度でも負けたら、モチベーションを維持できるか、正直わかりません」

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