新たな戦いの始まり。山中慎介の「最終章」が幕を開ける (3ページ目)
試合前、山中は言っていた。
「防衛回数にはこだわっていない。ただ、モレノに勝てば、海外に最高のアピールになる。この試合に勝てば、必ずラスベガスへの道がつながるはず。勝つことによって、僕のボクサーとしての最終章が始まる気がします」
最終章は、その幕を開ける前にエンディングを迎えてしまうのか……。その時、この日一番の「慎介コール」が会場に響いた。
1ヶ月前のインタビューに時間を巻き戻したい。
山中に、「その左拳に神が宿った瞬間は?」と聞くと、ひとしきり技術的な解説をしてくれた後、こう続けた。
「応援してくれた人に、『いい試合だったね』『すごいKOだったね』って言ってもらえるのが嬉しいんです。もちろん、自分のために戦っています。でも、何より応援してくれる人のために戦っている気がするんです。勝ち続けるうちに応援してくれる人がどんどん増えて、皆の想いに応えたい、この左で倒したい、と思いながらパンチを打つようになった時かもしれないです。もしも、この拳に神が宿った瞬間があるとしたら。
いい人に思われたいわけじゃないし、うまくたとえられないんですけど、お気に入りの店を内緒にしておくより、どんどん紹介して、行ってくれた人に『あの店、美味しかったよ!』って言ってもらえると、僕は喜びを感じる。喜びをみんなで分けあいたい、というか……」
またうまくたとえられなかったと、まるで照れ隠しのように、文頭の「あの店、知っています?」の会話につながった。
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