【ボクシング】西岡利晃、ラストダンス。敗者がリングに残したもの (3ページ目)

  • 水野光博●取材・文 text by Mizuno Mitsuhiro
  • photo by AFLO

 試合が動いたのは6ラウンド。西岡はプレッシャーを強めたが、ドネアの左ボディからつないだ左アッパーで、尻もちをつく形でダウンを喫す。セコンドの本田会長は、「よく研究しているな」と感じていた。

「左フックを全然打ってこない。あれだけ得意なパンチなのに。研究されていると思っているから。攻めのパターンは右ストレート、左アッパー。こっちもよく研究していたが、向こうもよく研究している」

 立ち上がった西岡は、左ストレート、左クロスを打ち込む。それでも手数は少ない。すでに、判定での勝利は厳しい状況。客席に座っていた徳山が、思わず立ち上がり声を振り絞った。

「右、当たるよ、右!」

 西岡は後のない状況の中、徐々に前進を強めていった。

 そして、9ラウンド。ドネアをロープへ追い込んだ場面で、右ガードの封印を完全に解く。

「ポイントで劣勢なのは分かっていたので、行くしかないし、倒すしかないと思っていました。倒すつもりだった」

 だが、逆にドネアの右ストレートが突き刺さり、2度目のダウンを奪われる。立ち上がった西岡だが、試合はストップとなった。試合を止めた本田会長は言う。

「あそこでもう一発、余分なパンチを喰う必要は何もない。見ている人には悪いけど。間違いなく(パンチを)喰っています。負けたことはいろいろ悔やむだろうけど、こういう舞台に立てて、よくやった。練習もよくやったし、知的に戦った。それよりもドネアが上だった」

 リング上で、ドネアが勝利者インタビューを受ける中、自陣コーナーのイスから立ち上がった西岡は、ロープ際まで歩み寄り、日本から来た応援団に向け、手を合わせ、頭を下げた。最前列にいたのは、妻・美帆さん。彼女が何かを伝える。表情こそ見えなかったが、西岡は一度だけ、ロープにかけていた両手を振り上げ、ロープに叩き付けた。

3 / 5

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る