【男子バレー】石川祐希の姿が街のあちこちに... 世界バレー開催地フィリピンで見たもの (3ページ目)
だが、ここでも大番狂わせが起きた。フィンランドがフルセットの末にフランスを下している。フィンランド応援団はバイキングの末裔のような重低音の勇ましい掛け声で、一斉に手拍子を鳴らす。声援に背中を押されるように、長身選手たちが高さで制空権を奪い、王者を押しきった。ヌガペトがケガで試合続行不可能となり、ベンチに退いたアクシデントはあったが、出場していたセットでもフィンランドは優勢に立っていた。
トルコ、カナダが日本を撃破した試合と同様の波乱だが、それこそ世界バレーと言ったところか。
世界バレーの敗退で、日本国内で批判が渦巻いているとか。しかし、現場で取材していると安易な批判はできない。もちろん勝機はあったはずで、それを掴めなかった原因は検証の余地がある。何よりストレート負けは看過できない。
相手が思った以上に日本を研究、対策をしてきたなか、それに翻弄されたまま連敗したのが実情だろう。「1年目」というお題目は悪くなかったが、ネガティブに作用した。どこかでエクスキューズになっていなかったか。
「1年目は関係ない」
そう言いきった髙橋藍がカナダ戦以降、吹っきれていたのが象徴的で、低調ななかでのチームのベストプレーヤーだったのだ。
9月18日
前夜はリビア戦に勝利し、取材エリアの日本代表選手たちの表情は明るかった。本来のサーブで崩すという戦術が機能。ようやく日本らしさが出たが、時すでに遅し、だった。
「最後は勝って終わりたいという思いはあったし、負けて帰るわけにはいかない、とも思っていました」
キャプテンである石川はそう言って、意地を見せた。
空港へ向かうタクシーでは、右手に石川の看板が見えた。渋滞にうんざりしたような運転手は、大音量で音楽を流している。郷に入っては郷に従えか。何度も何度も石川の姿が道路沿いに現われ、見送ってもらっているようだった。
28日、世界バレーは決勝が行なわれる。
著者プロフィール
小宮良之 (こみやよしゆき)
スポーツライター。1972年生まれ、横浜出身。大学卒業後にバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)、『アンチ・ドロップアウト』(集英社)など。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。パリ五輪ではバレーボールを中心に取材。
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