大坂なおみがメンタルで自滅しなくなった 全米OPベスト4の背景に「1カ月前に雇った」新コーチの存在 (3ページ目)
【体中に痛みが出て、年取ったんだなぁ】
他者の解釈と、大坂の認識との乖離(かいり)......それは過去の大坂と、未来の大坂のギャップとも言えるだろう。
他者が覚えているのは多分にかつての大坂で、対して大坂は、自分が目指すべき選手像を見ている。アニシモバの時に「蛮勇」とも言えるスーパーショットは、大坂が「成熟」と引き換えに手放したものかもしれない。
「私も体中に痛みが出てきて、年取ったんだなぁと感じる」
自嘲気味に笑いながら、そんなことを彼女は言った。
ただ、こうも続ける。「この痛みは、ハイレベルな試合を重ねた成果だと捉えている」と。
同じ事象も見る角度を変えれば、まったく違った景色に映る。そのような、ある種の思考術の習得も、成長のプロセスなのだろう。
そしておそらくは、試合後の大坂が穏やかだった最大の理由も、ここにある。
「なぜ今回は、そこまで前向きにいられるのか?」
その問いに、彼女は自分の胸のうちを確かめるように言葉を紡(つむ)いだ。
「すべては、プロセスだと思っているから。トマシュ(・ビクトロフスキ)と組んで、まだ2大会目。そこに今の自分のレベルや、昨年どんな結果を残せたかを理解したうえで全体を見通した時、今年は本当に順調だと感じている。
それに私は、毎年少しずつ成長していきたいタイプ。この大会を迎えた時点で、すでに自分の期待値を超えていた」
そこまで言うと彼女は、ふと大切なことを思い出したように加えた。
「実はちょうど考えていたんだけど......振り返ってみれば、私にとっての『最悪の年』は、誰かの『最高の年』でもあったのよね。そうやって、物事をポジティブに見るちょっとした技を、私も覚えつつあるの」
同じ事象も見る角度を変えれば、痛みは成果に、敗戦は成長の糧(かて)になる。
「今日負けたことで、もっと練習して上達したいと思えた」
無垢で前向きなその情熱は、トロフィーに劣らぬ輝きを放つ。
著者プロフィール
内田 暁 (うちだ・あかつき)
編集プロダクション勤務を経てフリーランスに。2008年頃からテニスを追いはじめ、年の半分ほどは海外取材。著書に『錦織圭 リターンゲーム』(学研プラス)、『勝てる脳、負ける脳』(集英社)など。
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