大坂なおみがメンタルで自滅しなくなった 全米OPベスト4の背景に「1カ月前に雇った」新コーチの存在 (2ページ目)
【アニシモバと私は正反対のタイプ】
だが、そんな状況にもかかわらず、大坂は辛抱強く、丁寧に戦い続けた。
意思疎通を拒絶する相手に対し、根気強く説得を試みるかのようにボールを追い、打ち返し、ラリーを交わそうとする。
相手のマッチポイントに面しても、その姿勢に変わりはない。相手サーブのマッチポイントを2本しのぎ、2度のブレークチャンスにまで持ち込んで、勝利への希望をつないだ。
そして、3度目のマッチポイント。最後は相手の強打が、必死に伸ばした大坂のラケットを弾き、大きくラインを割っていく──。
全身を反らし咆哮をあげる勝者をネットの向こうに見やりながら、大坂は静かに天をあおぎ、ゆっくりと、勝者を称えるために歩みを進めていった。
「ベストを尽くした」と笑みすら浮かべる試合後の会見で、大坂はひとつ、この日の対戦相手について素直な所感を口にしている。
「ちょっと笑ってしまうのは、彼女のプレーには"パターン"がなかったこと。まるで来たボールを全力でコートの空いているところに打ち込んでいるようで、しかもそれが、ほとんど入ってしまうんだもの」
大坂が相手のそのようなプレーに戸惑いを覚えたのは、今の彼女がより深くテニスを知り、そのゲーム性や戦略性を楽しんでいるからでもあるだろう。
その傾向は、約1カ月前にトマシュ・ビクトロフスキ氏を新コーチに雇ったことで加速したはず。現に大坂は今大会中、いかにコーチが新たな戦術やショット選択を教えてくれ、それにより「テニスに対する新たな視座を獲得できた」かを繰り返し口にしていた。
そのような大坂の「テニス観の変化」を浮き彫りにする、印象深い質疑応答の場面もあった。
それは、米国の記者が「自分と同じプレースタイルの選手(アニシモバ)と対戦するのは、難しいか?」と尋ねた時。質問を聞きながら怪訝(けげん)そうな表情を浮かべる大坂に、記者は補足するように続けた。
「外から見ていると、ふたりの似た選手がお互い、全力でボールを打ち合っているように見えるのだけれど......」
その説明を聞いてなお、いぶかし気に口をすぼめる彼女は、こう答えた。
「正直に言うと、彼女と私は正反対のタイプだと思う。というのも、私は強打するよりも、相手を見ながら打つことを意識しているから。結果として速いボールを打ったとしても、基本的に、私は相手に応じてプレーを変えている」
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