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錦織圭に次ぐ若さで坂本怜がプロ初優勝 18歳の「ビビラー」が超攻撃スタイルへと豹変したわけ (3ページ目)

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki

【試合中に脳裏によぎった本の一節】

 それら取り組みの成果を実感できた試合があったという。それは四日市大会の前週に、神奈川県で開催された「慶應チャレンジャー」。

 準々決勝で坂本は、最終的に優勝した清水悠太を相手にフルセットの死闘を演じた。しかも第1セットを取られ、第2セットも大きくリードされながら猛追してセット奪取。最終的に敗れはしたが、綿貫コーチは「打つだけでなく、自分は走っても戦える選手だと思えたはず」だと述懐した。

 実際に坂本も、この試合の大きさを以下のように語る。

「最近の課題として、試合中のアップダウンが激しく、ダウンした時に戻ってこられないことが多かった。でも清水選手との試合では、完全に流れが相手にいったなかから、ひとつ戻ってこられたのが自信につながった」

 ちなみに第2セットで敗戦間際に追い込まれた時、坂本の頭をよぎったのは、最近読んだ本に書かれていた『仕事とは、世間に求められて、初めて成立する』といった趣旨の一節だったという。

 プロとなり、テニスを仕事にした以上は、求められる何かを示さなくてはいけない──。そのような思いが「勝利の向こう側」に彼を向かわせたというのだ。

 四日市チャレンジャーの決勝戦は、磨きをかけた守備力と攻撃力が、思考力を媒介に高次で融合した瞬間だった。試合開始早々にリードを許した時は、「若干、気持ちが切れかけた」という。その後トイレットブレークを挟み、第2セット最初のゲームをいい形でキープした時に、「ひとつ、切り替わった」。

 決勝で対戦したクリストフ・ネグリトゥ(ドイツ)は、粘り強さが持ち味の苦労人。コーチが試合中に「一球でも多くボールを返せ。ラリーに持ち込むんだ」と助言していたことからも、長い打ち合いなら優位との読みが見てとれる。

 だが実際には、坂本は厳しい体勢からもボールを返し、なおかつ攻勢に回れば迷わずネットに詰め、息を飲むような繊細なボレーを沈めてみせた。最終セットも「集中力がフッと抜けた」場面がありながらも、危機をしのぎ加速する。

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