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小田凱人が「熱い試合がしたい」と吐露した全仏OP 決勝戦で「逆に燃えた」まさかのシチュエーション (2ページ目)

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki

【優勝を決めた瞬間、観客に見せたのは...】

 そのような流れのなか、ダブルスの準決勝がセンターコートに組まれる。

「これは、シングルス決勝もセンターコートでやるという伏線だろうな」

 そう予感した小田は、翌日の決勝戦に備え、ラケットバッグも、試合用の車いすも、センターコートに置いたまま会場をあとにした。

 ところがその日の夜に、単決勝は会場で4番目の大きさの「14番コート」になると知る。そのため決勝戦の日は、センターコートのロッカールームに残してきた荷物を「朝、取りに戻るところから始まった」。しかも、車いすごと別の部屋に移されていて、慌てる一幕もあったという。

 ただ小田は、その状況に「逆に、燃えたかな」と、口の端に笑みを浮かべた。

「ここでしらけた試合をしたら、次はない。自分のテニスのクオリティで、『次は小田を(センターコートに)入れないとダメだな』って思われる試合をすれば、絶対、次は入れてくれると思った」

 その炎を胸に宿し、彼は決勝戦のコートへと向かった。

 決勝の対戦相手のグスタボ・フェルナンデス(アルゼンチン)は、筋骨隆々の剛腕を振るってハンマーで打ちぬくように重い球を放つファイター。その相手の実直かつ情熱的なプレーに呼応し、小田の闘志も熱を帯びる。

 序盤にリードを広げた時は、くるりとチェアを360度ターンしてからのスマッシュなど、"魅せる"プレーも次々に披露。第1セットでゲームカウント5-5と並ばれてからは、一打ごとに声を上げ、自らを鼓舞し、リターンウイナー連発でブレーク奪取した。

 優勝を決めたのも、小田らしい超攻撃的プレー。ボールに襲いかかるように鋭くリターンを打ち返すと、そのまま前進し、ボレーを叩き込んだ。

 相手のラケットを弾き、舞い上がるボールがアウトになると確信した小田は、叫び、両手を広げると、その場で2回、3回とチェアを回転させる。そしてリストバンドを外すと、その下にはめていたテーピングをほどき、両端を握って客席に向けて広げた。

 そこに書かれていたのは、「Je t'aime Paris(I love you Paris)」の文字。

「パリの人々に、自分がこの町が好きだと伝えたかった」という小田が、翻訳機能を使ってフランス語を調べ、自ら書き記したメッセージだった。

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