ロシアのウクライナ侵攻にテニス界も大揺れ。ウインブルドン出場が政治的な意思表明につながる危険 (3ページ目)

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by AFLO

ジョコビッチは最大の被害者

 シフィオンテクはこう話す。

「ポイントがつかないことは、それほど問題ではない。私にとって大きいのは、政治的な側面。ポーランドはウクライナをサポートしてきたし、戦争は私たちの国のすぐとなりで起きているのだから」

 慎重に言葉を選びながら会見で語る彼女は、「決定権を持っている人たちは、みんなひとつにまとまり、力を合わせてほしい。現状では、それぞれが別の方向を見ているように見える」とこぼした。

 現在の男子1位でセルビア出身のノバク・ジョコビッチ(35歳)は、「ウインブルドンの行為は誤りだ」と、かねてからの主張を繰り返す。ただ、ポイントなし処置の最大の被害者は、前年優勝者のジョコビッチだ。

 昨年のウインブルドンで獲得したポイントは、1年後に失効する。そのため彼は、ポイントを守るチャンスすらなく、1位陥落の可能性があるからだ。その点に関してはジョコビッチも、「自分個人としては、ネガティブな影響が大きい」と現状を認識する。

 同時に、かつて選手評議会の会長を務め、現在は自らが立ち上げた「プロテニス選手会」代表であるジョコビッチは、大局的な見地に立って、こうも語る。

「ATPと選手たちが一体になり、グランドスラムに対しても、我々は力を行使すると示せたことは意義がある」

 さらには、「数日前に知ったことだが、英国政府からAELTCに向け、いくつかのオプションが示されていた」と明かし、こう続けた。

「なのに彼ら(AELTC)は、ATPや選手たち、ロシアやベラルーシの選手にも、まったく相談してこなかった。お互いの立ち位置をすり合わせ、妥協点を見いだそうとしなかった」

 かようにウインブルドンを鋭く糾弾したジョコビッチだが、一方で「ウインブルドンは自分にとって、子どもの頃から夢のトーナメント」とし、出場の意向をほのめかしている。

 なお、ジョコビッチのポイント喪失によって世界1位の座につく可能性が高いのが、ロシアのダニール・メドベージェフ(26歳)。皮肉なこの見通しに、現世界2位も「正直、奇妙な感じだ」と苦い笑みをこぼした。

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