大坂なおみに飛んだ「ヤジ」を考える。彼女が流した涙は「メンタルの弱さ」だけで片づけてはならない
「ナオミ! You Suck!」
観客のひとりがこの言葉を叫んだ時、周囲の客席からは「オー?」っと発言者をとがめる声があがった。
カルフォルニア州インディアンウェルズ開催のBNPパリバ・オープン2回戦。大坂なおみがベロニカ・クデルメトバ(ロシア)相手に最初のサービスゲームを落とした、その直後の出来事だ。
大坂なおみが涙を流した時、観客の反応は...この記事に関連する写真を見る この「ヤジ」を耳にした大坂は、主審に歩み寄り、何かを訴えはじめた。テレビ中継用のマイクが拾ったのは、「そのマイクを使わせて。悪口を言い返すのではない、伝えたいことがあるだけ」という彼女の声である。
主審が「スーパーバイザー(大会進行の責任者)の確認を取らなくてはいけないから」と返答したため、大坂はプレーを再開する。
ただ......スタジアム内の巨大スクリーンに映し出された彼女の顔は、涙に塗れていた。
その様子を見た客席からは、大坂への激励が次々に飛ぶ。だが、ファンの温かな声も、彼女が負った心の傷を癒すにはいたらない。
第1セットは、広角に打ち分けられる相手の強打についていけず、1ゲームも取れずに失った。
第2セットは少し持ち直すも、相手の好プレーを崩すには至らない。わずか1時間18分、0−6、4−6の敗戦だった。
大坂に向けられた「You Suck」の意味合いを、どう捉らえるかは難しい。
「最低」と訳されることも多いが、スポーツの「ヤジ」としては、ある種定番の言い回しだ。その場合は、「へたくそ」程度のニュアンスかもしれない。
ただ、同じ言葉でも、受け止め方はそれぞれだ。
この大会の取材にあたっているベトナム系アメリカ人の女性記者は、次のような例を引き合いに出し、そのことを説明した。
「パンデミック以降のアジア人ヘイトの機運が高まっていた時、街中で悪口を浴びさせられたら、それが人種差別的な内容でなくても、『私がアジア人だから?』と思ってしまう」
つまりは同じ言葉でも、どう響くかは状況や環境によっても変わってくる。
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