錦織圭も認める実力。内山靖崇は細いチャンスの糸を縄に変えた (2ページ目)

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by AFLO

 ただ、それら周囲の声と自己評価に、内山は違和感に似た乖離(かいり)を覚えていたかもしれない。

「僕からしたら、ナショナルトレーニングセンターで練習している他の日本人は、めっちゃテニスがうまいんですよ。どんなプレーもこなせる、オール5タイプの選手たちです」

 謙遜や卑下の色は一切なしに、彼は実直な口ぶりで言う。

 対して内山の自己評価は、「5もあったり、1もあったりのタイプ」。その自分像と周囲との比較が、小さな劣等感の種になっていたかもしれない。自らが進むべき方向性を、定めきれない要因でもあっただろう。

 戦績も、ツアーの下部大会「ATPチャレンジャー」で優勝した翌週に初戦敗退するなど、なかなか好結果が続かない。勢いに乗りかかった時、ケガに見舞われることも少なくなかった。それらの足跡が温厚な性格とも相まって、いつからか彼には、「メンタルが弱い」とのレッテルが貼られるようになっていた。

 その内山の戦績に、今年に入ってから明確な変化が現れた。

 1月のブリスベン国際では、予選を勝ち上がりベスト8へと躍進。その道中では、世界14位のカイル・エドマンド(イギリス)を破ってもいる。さらに7月のウインブルドンでも予選を突破し、初めてグランドスラム・シングルスの本戦への切符を掴み取った。この予選の決勝も、チャンスを逃して相手に先行されながら、土壇場で逆転するという勝負強さを示したものだ。

 これら好成績の重なりが決して偶発的でないことを、内山は知っている。それはこの1年ほど、試合のみならず練習時やオフコートですら、以前よりスムーズに事が進んでいると確信しているからだ。

 コーチとの話し合いにしても、何をすべきか目的意識を共有できているので、遠回りやストレスがない。練習が充実しているから、オフの時は不安に心をとらわれることなく、テニスから気持ちを切り離しリラックスできる。そのうえで向かう試合のコートでは、相手をどう崩すかのみに専心できるため、頭がクリアでイライラすることも少ない。

2 / 3

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る