2019.05.12

錦織圭が取り戻した天性のタッチ。
未来に向けてさらに必要な要素は?

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by Mutsu Kawamori/MUTSUFOTOGRAFIA

 時速220キロのサーブが容赦なく赤土をえぐった時、錦織圭は顔をしかめて天をあおぎ、フェンスに跳ね返り足もとに転がってきたボールを恨めしそうに打ち返した。

「このコートは、サーブがいい選手と対戦するのが難しい」

クレーシーズンになって徐々に調子を取り戻してきた錦織圭 戦前に抱いていたその危惧が現実になることを告げるかのような、マドリード・オープン3回戦の立ち上がり。野性味あふれるプレースタイルから、「アニマル=猛獣」をもじった”スタニマル”の愛称で知られるスタン・ワウリンカ(スイス)は、自慢の豪腕から強烈なサーブを連発し、錦織をねじ伏せにかかる。

 第1セットでワウリンカがブレークしたのは第2ゲームのみではあるが、流れを掌握するには十分だった。このセットを通じ、ワウリンカがサービスで失ったポイントはわずかに2。6−3というスコア以上に、一方的な展開だった。

「圭とは試合も練習も何度もしてきたので、お互いのプレーはよく知っている。彼との対戦は常に、どちらが攻撃の主導権を手にするかにかかっている。いいサーブを打つこと、そして彼を左右に走らせることを考えていた」

 ワウリンカは錦織と戦う際の勘所を、そのように述懐する。

 一方、第1セットを26分で失った錦織は、相手の調子のよさを感じると同時に、ワウリンカの速い展開に焦りを覚え、自分のミスが増えていたことも感じていた。

 そのうえで迎えた第2セットでは、まずは徐々にサーブを攻略しはじめる。とくに、相手のセカンドサーブを早いタイミングで叩き、そこからの展開で優位に立つ場面が増えた。

 第4ゲームでは、軽やかに飛び上がると鋭いバックハンドのウイナーを叩きこみ、この試合初のブレークポイントも掴む。結果的にブレークには至らなかったが、それでも、相手にプレッシャーを与える効果は十分にあっただろう。

 第1セットよりも慎重にプレーしはじめたワウリンカに対し、錦織はドロップショットやネットプレーで揺さぶりをかけていく。第2セットは互いのゲームをキープしあい、奪ったポイント数はワウリンカ40、錦織が39。がっぷり四つに組み合ったまま、タイブレークへともつれこんだ。