2019.05.11

大坂なおみを苦しめた世界1位の魔力
「ゴチャゴチャ考えてしまった」

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by Mutsu Kawamori/MUTSUFOTOGRAFIA

 掴みかけていた勝利は、握りしめようとした瞬間に、サラサラと指の間からこぼれ落ちた。

 勝てばベスト4進出が決まる、マドリード・オープンのベリンダ・ベンチッチ(スイス)戦。第1セットを力強く奪い、第2セットはブレーク合戦の末に失うも、再び強烈なサーブを軸に試合を支配していた終盤――。第3セットでゲームカウント5−4とリードし、あとは自身のサービスゲームをキープすれば勝利、というところまで迫っていた。

大事な局面でミスを犯して空を仰ぎ見る大坂なおみ だが、このゲームでの彼女はサーブに苦しみ、ベンチッチのリターンの餌食になる。

 ブレークを許し追いつかれると、それまでライン際を捕らえていたフォアの強打は糸の切れた凧のようにコースを外れ、相手コートをえぐったバックはことごとくネットを叩いた。最後は、突如の崩壊を象徴するように、強打したボールがネットにかかる。試合終盤の3ゲームで大坂なおみが取ったのは、わずかに2ポイントだった。

 この結果だけを見れば、敗戦へと転がり落ちるターニングポイントは、5−4からのサービスゲームだと思われる。だが実際には、崩壊の引き金はその前のゲームにあったのだと、のちに大坂は明かした。

「(ゲームカウント)5−3でのバックハンドのミスが、心にひっかかってしまって……。相手が打った浅いボールを、私はバカみたいに全力でネットのど真ん中に打ちつけてしまった。あれを決めていれば、マッチポイントだったから」

 打った瞬間に悲鳴をあげたその1本を、彼女は試合後1時間以上経った会見時にも、まだ「悔いている」とうなだれる。

「いい時の私は、ミスをしてもその過ちから何かを学び、すぐ次へと気持ちを切り替えている。それなのに今日は、ミスがどれだけ試合に影響するかを考えすぎてしまった」

 その混乱状況を彼女は、「頭の中で、多くの『ドラマ』が起きていた」との言い回しで表現した。

 「なぜ、こんなにゴチャゴチャ考えすぎてしまったのかな……?」

 大坂が自分自身にも質したこの問いの答えは、彼女が会見時に明かした”本音”にある。