2019.05.09

錦織圭「最近で一番ショック」な
フェレールの引退に想いを馳せる

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by Mutsu Kawamori/MUTSUFOTOGRAFIA

 初戦であたる相手としては、いささか不気味ではあった。

 第6シードで1回戦免除の錦織圭は、大会4日目の2回戦がマドリード・オープンの初陣。対するウーゴ・デリエン(ボリビア)は、予選を含めすでに3勝をこのコートで手にしている。

マドリードOPのシングルス初戦を難なく突破した錦織圭 ボリビア出身の25歳は、今季の出場大会はマイアミ・オープン以外すべてクレーという、典型的な赤土のスペシャリスト。コートへの慣れや、ここ数日間の実戦密度、そして勢いや失うもののない強みなど、錦織を苦しめかねない要素は、パッと思いつくだけでも片手の指が埋まるほど挙げられた。

 その初顔合わせにさらなる不確定要素を添えるように、この日のマドリードは朝から強風が吹きすさぶ悪天候。錦織らがコートに足を踏み入れるのと前後して雨も降り始め、水を含んだ赤土が鮮やかなオレンジから土気色に変色するなか、試合はデリエンのサーブで幕を開けた。

 それら番狂わせの因子が揃っているかに思われた試合だが、いざ始まると際立ったのは、錦織の強さである。

 立ち上がりは無理せず深いボールをコーナーに打ち分けてミスを誘い、3ゲームあたりからは客席のどよめきを呼ぶ強打やネット際に沈めるドロップボレーを放ち、一気に引き離しにかかった。試合開始から30分も経たぬうちに、ゲームカウントは5−1に。コート上に広がる光景は、世界7位と109位のランキングが、そのまま実力差であることを映すようだった。

 だが、試合を支配しながらも、錦織は心のどこかで、相手の力は「こんなものじゃないだろうな」と思っていたという。この微かな躊躇(ちゅうちょ)が、開き直りに近い相手の逆襲を呼び込んだのだろうか。

 デリエンは錦織のボールが少しでも甘くなれば、唸り声をあげ、強打をコーナーぎりぎりに叩き込んだ。いつのまにか、強風が雲を押し流した上空には青空ものぞき、乾き始めた赤土がボールを高く跳ね上げていく。

「跳ねるサーフェスで、彼のボールがどんどん重くなっているのを感じていました」と言う錦織は、相手に傾く流れをせき止めきれず、ゲームカウントは5−5に。それでも、続くゲームを6度のデュースの末にブレークし、第1セットをからくも錦織が取りきった。