西岡良仁に拍手喝采。「大人のテニス」で強豪撃破の小兵の哲学 (3ページ目)

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by AFLO

 18歳が抱いた違和感は、ボディブローのように蓄積され、第2セット中盤で鍋が吹きこぼれるようにミスとなって噴出する。その機を逃さず第2セットを逆転で奪った西岡は、第3セットも5-1とリードを広げた。

 だがドラマは、ここではまだ終わらない。後がなくなった挑戦者が捨て身の反撃に転じた時、再び流れは反転する。手のつけようのなくなった相手に追い上げられた西岡は、精神的に落ち込んだことを後に認めた。だが、コート上では若い相手に、弱った自分を絶対に見せたくない。

「やられても、なんでもないという顔をしていました」

 それは、けっして数字には現れぬ、ささやかな反撃。だが、相手の心理には確実に、晴れぬ靄(もや)をかけていた。最終セットのタイブレークでの西岡は、勝利を意識した相手の硬さを見抜き、ラリーを続けてミスを誘う。

 重圧がかかった局面での戦い方、そして相手の心の動きを読み取る能力――。それらを総動員した勝利を、西岡は「大人のテニス」と定義して、矜持と自嘲の交じった笑みをこぼした。

 その2日後――西岡は試合前の練習で、右腰部に痛みを覚える。

 タフな試合が続いてはいたが、筋肉痛や疲労はほとんど感じてなかった。試合のない日は休養にあて、練習前のストレッチなども誰より時間をかけて、入念にやっているという自負もある。それでも見舞われた突発的なアクシデントの悲しみに、彼は「事故のようなもの。運がなかった」と自らに言い聞かせることであらがった。

 手をかけた自己ベストランキングは、またも握りしめる直前で、その手からすり抜けた。だが、思い出の地で再び達したベスト16は、勢いで至った前回よりも価値のあるものだと、西岡は知っている。

「間違いなく実力は上がっている。自信もついているし、それにともない結果も出ていた。2年前に比べても、すべてにおいてよくなっている」

 彼の言葉は、いつも現実のものとなる。最良の日は、今、進む道の先に必ずある。

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