天才少女・奈良くるみも27歳。悪循環終止符へ「変わらなくていい」 (2ページ目)

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by Getty Images

 そしてだからこそ、「若い選手のハングリー精神と戦っていくには、よっぽどのエネルギーが必要だな」と、郷愁に似た実感を覚えるのだという。

 もちろん、今の自分には、若い選手にはない経験がある。だが時に、その経験が既定の枠に自分をはめ込み、邪魔することもあると彼女は言った。

「負けが続くと、気力や体力を上げていかないといけないというのが、去年から今年にかけて感じていることです」

 フェドカップ日本代表に奈良が求めた「何か」......。それは、若さに対抗し、足かせとしての経験を打破するための足がかりだった。

 フェドカップでの奈良は、予想どおりシングルスの控え選手で、当初発表された2日間のオーダーに名はなかった。だが、1勝1敗で終えた初日の夜のミーティングで、翌日のシングルスに起用されることが伝えられる。対戦相手との相性や状況から見て、自分が使われる可能性を十分考慮していた奈良に、別段、驚きや焦りはなかったという。

 それでも、試合当日の朝は、眠りを妨げるほどの胸の鼓動とともに目覚めた。

「あ~、昨日の夜に戻れたらな」

 そんな想いを抱えながらも、同時に試合を......あるいは試合に向かうまでのプロセスを、どこか楽しみにしている自分もいる。

「試合に入るまでに覚悟を決めないといけないし、そのあたりのコントロールが、今のところうまくできていると思います」

 それは、経験があるからこそ、可能な心の制御だろう。

 自分の勝敗がチームの命運をも左右しかねない一戦で、奈良は突然の起用にもかかわらず、価値ある勝利をもぎ取った。たとえポイントを失おうとも、155cmの小柄な身体で最後までボールを追い、何度も相手にリードされてもその都度追いつく奈良の姿は、常に見る者の胸を打ち、熱の帯びた一体感をチームメイトたちにもたらす(結果はトータル2勝3敗でスペインに敗れた)。

「くるみちゃんと(土居)美咲ちゃんのことを、本当に尊敬している。このふたりの先輩と一緒に、フェドカップで勝ちたい」

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