天才少女・奈良くるみも27歳。
悪循環終止符へ「変わらなくていい」
代表入りを告げる連絡を受けたのは、昨年のクリスマスの頃だった。
2月9、10日にかけて、北九州市で行なわれたフェドカップ(女子国別対抗戦)対スペイン戦。ただし、シングルス2名、ダブルス二人一組のレギュラー4名に対し、代表選考枠は5人である。世界ランキングを考慮すると、シングルス3番手の奈良くるみには、たとえ代表として同行しても、出場の機会が回ってこない可能性も高かった。
フェドカップ・スペイン戦で勝利を奪い取った奈良くるみ フェドカップに出場するということは、世界各地で開催される大会を線でつなぐように転戦するスケジュールに、綻(ほころ)びをきたすことにもなる。ツアー大会に出れば稼げたであろう賞金やランキングポイントを、犠牲にすることにもなりかねない。
それでも奈良は、「行きます」と返事をした。
「試合には出ないかもしれないけれど、今の自分の、何かきっかけになれば。何か拾えるものがあれば......」
それが、彼女に日の丸を背負う決意をさせた、一番大きな理由だった。
2014年には世界の30位に達し、以降も常にトップ100内に名を連ねてきた奈良の、現在の世界ランキングは156位。昨年末の時点でも100位を割り、1月の全豪オープンには5年ぶりに予選からの出場が決まっていた。
テニスのクオリティや技術面に、とくに問題を抱えているわけではない。ただ、競った局面でポイントが取りきれず、勝ち切れない試合が続いた。すると、「自信をなくし、フィジカルも落ち......というのが重なる」という、悪循環に足を取られた。
さらには、自分と同程度のランキングの選手たちが出る大会に身を置いた時に、あらためて感じたのが、「世界的に見ても、年齢的に上になってきたんだ......」という現実。
昨年12月に27歳を迎えたばかりの奈良ではあるが、プロ生活はすでに10年。周囲の10代の選手たちは、トップ100へと駆け上がろうと、野心とハングリー精神をたぎらせている。何もかもが目新しく、今が楽しくて仕方ない......それは、かつての自分も感じた、心身の活力の充溢だ。
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