錦織圭との濃密な6年間。トレーナーが語る「ケガをしてよかったこと」 (3ページ目)

  • 内田暁●取材・文・撮影 text & photo by Uchida Akatsuki

 たとえば、スクワットや、足を一歩前に出してひざを曲げる運動の時に、後ろに重心がかからないように指導しました。あるいは、これはひとつの例ですが、足の指の力が弱いと前に乗れないので、その箇所を鍛えたりもします。必要な筋力を鍛えたり、動きを改善することで、自然とコート上での動きや打ち方も変わりましたし、ひざの痛みも消えました」

 段階を踏んで目的地へと向かったその結果、たしかに錦織の打球時の重心は、2014年には素人目にも明らかなほど前に移っていた。全米オープン準優勝やジャパンオープン優勝、そしてATPツアーファイナルズベスト4という躍進の1年は、それら緻密な分析と計画の上に築かれた成果だ。

 野球やバスケットボール選手も見てきた中尾氏は、他競技と比べても、テニスはフィジカル的に過酷な競技だと言う。また、1月初旬に行なったこのインタビューで中尾氏は、全豪オープン開幕前に引退を示唆したアンディ・マリー(イギリス)の未来を予見するかのような言葉を残していた。

「私が就任した時に圭が望んでいたのは、痛みがなくなること、そして、ケガをしても回復が速いことでした。それはこの6年間で、かなり成果が出たと思います。今回の手首のケガ(2017年8月の尺側手根伸筋腱脱臼)以外は、3週間以上休んだことはないと思います。それは、他の選手と比べても珍しいと思いますよ。ナダルもマリーも、長期的なケガはありましたから。

 長期的に離脱させないことを、もっとも重要視していました。それをさせないためには、見極めもそうだし、痛みの出ない身体を作ることが大切です。ただ、痛みに強いというのと、ケガがないというのはまた少し違うことで、限界は必ずあります。

 たとえばツアーで、3週連続で優勝するのはフィジカル的にほとんど不可能です。マリーは2016年に2週連続優勝を複数回していましたが、アナウンスはしないだけで、身体にはいろいろと抱えていたはずです。

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