2018.07.12

錦織圭、悔やむ節目の第3セット。
「あの第5ゲームを取れていたら…」

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by AFLO

 ウインブルドンのセンターコートは、おそらくはテレビの集音マイクが拾いきれぬ、多くの音に満ちている。

 観客や選手たちを「男性=Men」「女性=Women」ではなく、「紳士=Gentlemen」「淑女=Ladies」と称する品位のウインブルドンでは、客席の声援や熱狂度も他の大会に比べて幾分、上品で控えめだ。だがその分、思わず漏れる歓声やため息に、リアルな情感が込められる。

ジョコビッチに敗れてベスト4入りを逃した錦織圭 ノバク・ジョコビッチ(セルビア)と錦織圭の準々決勝では、序盤から多くの声と情動が、客席に大きくせり出す庇(ひさし)の下でこだました。

 試合開始4ゲーム目で、互いにドロップショットとボレーを打ち合うネット際の攻防から、ジョコビッチがフォアの強打でポイントを奪ったとき、元世界1位に対する敬意の声が沸き起こる。だが、続くゲームで、ロブで頭上を抜かれた錦織が鮮やかに股抜きショットを打ち返し、最後は鋭角にコートを切り裂くバックの強打でポイントを奪ったとき、興奮の叫びが客席から沸き起こった。

「What a point(なんてポイントだ)!」

 客席の一角からあがった叫びが、多くのファンの思いを代弁する。

 そして、このポイントを機に、錦織の快打には驚嘆の声が、ミスには落胆のため息が、観客から漏れるようになり始めた。勇猛かつ華麗に攻める錦織の姿に呼応して、センターコートの感情は驚喜と失意を行き来した。

 第1セットを奪ったジョコビッチ優勢の潮目が変わったのは、第2セットの第2ゲーム。3連続のブレークポイントに瀕(ひん)した危機を、錦織が切り抜けたときだった。

 好機を逃したジョコビッチがラケットを投げ捨てると、「芝を痛めた」として警告が与えられる。納得できぬジョコビッチは主審に食い下がるが、抗議の怒声は、客席からのブーイングを呼んだ。数を増す声援を背に、直後のゲームを錦織がブレーク。そのリードを維持し、錦織が第2セットを奪ったとき、拍手と歓声がセンターコートを包んだ。