2018.06.02

ついに自分も楽しくなってきた錦織圭。
赤土でナダルに勝った男と激突

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by AFLO

 そのラリーのなかで、ボールを打つたびにキリキリとネジを巻くようにタイミングを早め、相手の時間と空間を奪っていったのが錦織だ。また、フラットのボールを基本とするシモンに対し、錦織は低く伸びるバックの強打に鋭く変化するフォアのスピン、さらにはバウンド後に滑るスライスなど、ショットバリエーションで大きく相手を上回った。

 外から見れば息詰まる精神と体力の削り合いだが、当の錦織は水を得た魚のように躍動し、その表情には明るい精悍さが刻まれる。3度のデュースの末に、ウイナーを2本連ねて錦織がブレークしたこのゲームを機に、早くも試合の趨勢(すうせい)は決した。

 第1セットを6−3で奪うと、第2セットは立ち上がりから4ゲーム連取。第3セットはスコアこそ競ったものの、錦織に崩れる気配はまるでない。ラインを捉えるバックのストレートや、ネットを支えるポールとスポンサー看板の間を切り裂き相手コートに刺さる"ポール回し"など、スーパーショットを連発する錦織。そのたびにどこか不思議そうな表情を浮かべていた彼は、後に「ライン際に吸い込まれるようなショットがすごく多くて......そんなに狙ってないのになって心のなかでは思ってましたが」と、いたずらっぽい笑みで振り返る。

「やっとラリー戦を楽しめる相手でしたし、自分の調子もよくて。こういう試合が増えてくると、自然と試合も楽しくなる」

 試合後の錦織は、「楽しい」という言葉を幾度も繰り返した。

 コートに立つことに喜びを覚え、窮状を脱するプロセスも含め試合そのものを楽しむことは、今大会の錦織が掲げるひとつのテーマでもあるだろう。

「次からは、自分が攻めてばかりでは勝てない相手。いろんな駆け引きを、これからも楽しめればと思います」と、さらなる楽しみの追求にも言及した。その錦織が4回戦で対するのは、世界8位のドミニク・ティーム(オーストリア)。今季クレーでラファエル・ナダル(スペイン)に唯一の土をつけた、次代の「赤土の王」候補である。