錦織圭、「ノーシードはつらいよ」の境遇も楽しめる自信がついてきた

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by AFLO

 入場口からコートへと歩む足跡が、きれいに整地された赤土の上にひとつ、またひとつとくっきり刻まれていく。その足跡にかぶさるように、客席からは錦織圭の名を呼ぶ声が次々と降り注いだ。

フェリシアーノ・ロペスをストレートで下した錦織圭フェリシアーノ・ロペスをストレートで下した錦織圭 ローマ・マスターズの大会2日目。錦織vs.フェリシアーノ・ロペス(スペイン)の一戦には、センターコートの第1試合が用意される。ケガでランキングを落としている元世界4位と、36歳を迎えてもなお衰えぬサーブ&ボレーの名手の顔合わせは、今大会の1回戦屈指の好カードだった。

 その観客の期待に、ふたりの選手はプレーで応える。サウスポーから放たれるロペスのサーブは常時200キロを計測し、文字どおり"切る"ように繰り出されるスライスは、時に風に乗って鋭く伸び、時にネットぎりぎりに落とされた。

 対する錦織は、快足を飛ばし幾度もドロップショットをすくい上げては、硬軟自在の展開からフォアの強打を叩き込んだ。コートを軽やかに駆け、空間を広く使う錦織のプレーに、ロペスの技が芳醇(ほうじゅん)な風味を加えていく。多彩なショットの競演の末に、第1セットはタイブレークにもつれこんだ。

 一進一退の攻防となったタイブレークで、最終的に錦織が勝った要因は、やはり展開力だった。バックの鋭角なクロスからストレートへと切り返すパターンは、赤土の上で特に効力を発揮する。後に錦織は「もう少しミスを減らすべき」だったとタイブレークを省みたが、それでも勝負どころでプレーの質を上げ、勝利への道筋を拓く第1セットを奪い取った。

 第2セットに入ると錦織は、サウスポー特有の変化を見せるロペスのサーブに、徐々に適応し始める。

 鋭いバックのリターンで最初のゲームをブレークすると、以降は試合の流れを掌握。第6ゲームでは、やや集中力が抜けたかのようにミスを重ねて失うも、直後のゲームでふたたびブレーク。長い打ち合いのなかで相手を崩す術(すべ)を模索し、届かないと思われるドロップショットやスマッシュを最後まで追う姿勢が、ストレートでの勝利を引き寄せた。

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