ポニーテール姿から14年。フェデラーとウインブルドンの特別な関係

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by AFLO

 ウインブルドン史上最多となる、8度目のタイトルを追った今大会。彼は常に、センターコートへ続く入り口に刻まれたラドヤード・キップリング(19世紀末から20世紀初頭に活躍したイギリス人作家)の詩の一節をくぐり、戦いの場へ向かっていった。

2003年に初めてウインブルドンを制したときのフェデラー2003年に初めてウインブルドンを制したときのフェデラー「もし、栄光と挫折に向かい合い、そのいずれの虚構をも、等しく受け止められるなら――」

 1年前にこのコートで敗れたミロシュ・ラオニッチ(カナダ)との再戦に挑むとき、あるいはマリン・チリッチ(クロアチア)が待つ今年の決勝の舞台へと向かうとき、彼は扉の上に刻まれたこの詩に目をとめただろうか。

 もし、彼がこの詩を読んだなら、初めて決勝戦のコートへ向かった14年前の日を、思い出しただろうか......?

 ポニーテールを揺らし、無精ヒゲに顔を覆われた当時21歳のロジャー・フェデラー(スイス)は、その2年前のセンターコートで「憧れ」のピート・サンプラス(アメリカ)を4回戦で破り、世界にその名を知らしめた。

 だが、世界ランキング9位まで駆け上がり、優勝候補の一角と目されて挑んだ翌年は、初戦でマリオ・アンチッチ(クロアチア)にまさかのストレート負けを喫する。栄光と挫折のいずれをも経験し、その現実も虚構性も味わい迎えた2003年、彼は7つの勝利を連ね、悲願の頂点へと駆け上がる。求め続けたウインブルドンの優勝トロフィーを胸に抱いたとき、彼は「泣くなんて思っていなかったけれど、我慢なんてできなかった。この大会は、僕にとって特別すぎるんだ」と、大粒の涙をこぼした。

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