錦織圭「ここが好きだ」の自己暗示で苦手コートを克服し、難敵に完勝 (3ページ目)

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by AFLO

 そのように、やや慎重に入ったなかで最初のゲームをブレークされたのは、ある意味で想定内だったのかもしれない。このいきなりのブレークに「多少焦る気持ちもあった」錦織だが、すぐに立て直せた要因は、「100%を望まない」という心の持ち様にあるだろう。

「このコートでは、理想とするプレーは難しい」という割り切りが、気持ちを落ち着かせ、直後のブレークバックにつながる。以降は長い打ち合いにも焦れることなく、丁寧にボールを左右に打ち分け、ストローク戦を制御。そうして並走状態で迎えた第8ゲームでは、相手のダブルフォールトを好機とみて、集中力を研ぎ澄ます。最後は鮮やかなバックのパッシングショットでブレークした錦織が第1セットを先取した。

 序盤は客席もまばらな、日曜の午前開始の試合に熱が宿り始めたのは、第2セット第1ゲームのことだった。錦織が放つ絶妙なドロップショットに、あるいはバックの鋭いクロスのパッシングショットに、そしてネット際での攻防の末に叩き込んだ豪快なボレーに、客席からどよめきと歓声が沸き起こる。

 錦織が瀟洒(しょうしゃ)なプレーでスタジアムの空気を支配するに従い、自分の得意な形に持ち込めなくなったエバンスは、苛立ちを募らせ始める。第9ゲームでダブルフォールトを犯すと同時に、エバンスがラケットを叩きつけたとき、事実上の勝敗は決した。警戒していた相手からストレート勝利を手にした錦織は、「タフな試合を予想していたが、いいプレーができた」とコート上で声を弾ませた。

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