マルチナ・ヒンギス、35歳。20年前に歴史を変えた地、全英へ帰還す (4ページ目)

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki  photo by AFLO

 2013年夏、2度目の復帰を果たしたヒンギスの試合のコートサイドに、クルム伊達の姿があった。

「ヒンギスを見てみたい」......純粋にそれが、クルム伊達の観戦理由。実際に見たその印象は、「上手すぎてビックリ。さすがは元天才少女ですね」というものだった。"うまさ"にかけては多くの選手が舌を巻くクルム伊達が、驚きを隠せぬほどに、ヒンギスの"巧みさ"は頭抜けていた。

 柔らかなリストワークで、相手が予測不能なコースにあらゆる球種を打ち分けるテクニック。あるいは"読み"のよさで、常に相手の打つコースへと最短距離で走り込む戦術眼......。それら、ヒンギスを天才と言わしめる要素は観戦者の目にも明らかだが、同じコートに立つ競技者は、より脅威として肌身で感じるようである。

 たとえば今年4月、日本トップのダブルスペアである穂積絵莉と加藤未唯は、ヒンギス/ミルザ組と対戦し、1-6、1-6の完敗を喫した。

「今まで通用してきた自分たちの持ち味が、何も通用しなくて......」

 そう愕然とする穂積は、ヒンギスの"すごさ"について、次のように説明した。

「特に大きく動くわけではないけれども、ポジショニングがすごくいいので、いつの間にかこっちの打つコースがどんどん狭まっていく。読みもいいので、ボールを打つところ、打つところにいる感じで......。それに、同じボールを続けて打つことがないので、同じリズムでやらせてくれない」

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