錦織圭とジョコビッチ、2人が語る「勝者と敗者を分けたもの」 (4ページ目)

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki  photo by AFLO

「硬くなってしまった。勝ちを意識し始めたところでもあったし......」

 それが、錦織が吐露したこのときの心境だ。意識したその瞬間に、勝利はスルリと、手もとから滑り落ちる。

 最終スコアは、6-2、4-6、6-7。それは、この19ヶ月の間に重ねた8回の挑戦で、錦織がもっとも勝利に肉薄した瞬間でもあった。

 一方のジョコビッチは、「勝者と敗者を隔てた要因」を問われて、こう答える。

「今いる、その瞬間のみに集中することだ」

 そして、それを可能にするには、「経験」が重要だとも彼は言う。

「特定の緊迫した場面で、どのような感情や状況を経てきたか、という記憶。そして切り抜けるうえで、何が求められたかという記憶が助けになる」

 29歳の誕生日を目前に控える世界1位は、確信に満ちた表情で言った。

 だとすれば、この緊迫の場面で錦織の脳裏をよぎった記憶は、1週間前のマドリードの対戦時にも3-2から3ポイント連続で奪われて敗れた、あのタイブレークだったか。あるいは、過去に幾度も味わわされた、ジョコビッチの圧倒的な勝負強さかもしれない。

「最後の数ポイントで、彼は攻撃的かつ安定していた。重要な場面で、彼は簡単にポイントをくれない。いつも彼は、そうなんだ」

 悄然(しょうぜん)としながら、錦織は続ける。「僕にはもう少しだけ、経験が必要なのかもしれない」と。

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