全米OP開幕。錦織圭が「去年負けて良かったのかも」と語った真意

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki   photo by AFLO

 練習終了予定の16時に時計の針が近づくと、テニスボールを手にした少年・少女たちは一斉にフェンス際に駆けより、「ニシコリー!」「ケイ!」とお目当ての選手の名を叫ぶ。

 予定時間ギリギリまで、友人でもあるアレクサンドル・ドルゴポロフ(ウクライナ)とボールを打ち合い汗を流した錦織圭は、必死に手を差し伸ばすファンたちにゆっくり歩み寄ると、ペンをすばやく何度も何度も走らせた。

全米オープンのコートで最終調整に励む錦織圭全米オープンのコートで最終調整に励む錦織圭 今年は会場や街を歩いていても、ファンや道行く人から声を掛けられる機会が多い――。テレビ局のインタビューを何社も受け、開幕前の会見にも多くの地元記者たちが集まり、質問を浴びせかけた。

「やはり、グランドスラムの大きさはすごいな。トップ10に定着したお陰でもあるんだろうな」

 昨年、自分が成し遂げた『準優勝』の大きさを改めて肌身で感じつつ、彼はふと、こうも思う。

「去年は、負けて良かったのかもしれないな......」と。

 1年前、彼はまだ世界の11位だった。その彼を今の4位に押し上げた疾走の始まりは、昨年の全米オープン決勝における、人生で最も悔しいひとつの敗戦である。

「もし優勝していたら、充実感が大きすぎて満足し、ひと息ついていたかなと思うので。負けて、よりハングリー精神が増したところもあり、悔しい思いがバネになった」

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