神尾米が語る「錦織圭という少年のファーストインパクト」 (3ページ目)

  • スポルティーバ●構成 text by Sportiva 真野博正●写真 photo by Mano Hiromasa

 そして今回の全米オープンでは、マイケル・チャン・コーチをはじめとするスタッフたちが、試合に勝っても「次がある」という雰囲気を作っていたことも大きかったのではないでしょうか。もちろん勝利の後は、「良くやった」と声を掛けていると思います。でもすぐに、次の試合の準備に向かっているのが印象的でした。

 テニス選手の毎日は、同じルーティーンの繰り返しで単純な部分があるのですが、それを淡々とやり遂げられる人というのが、強い選手でもあります。錦織選手は今大会、勝ち上がって行っても、本当にいつもと変わらず普通でした。私たち取材スタッフと会っても、まったく嫌な顔ひとつせずに、一緒に写真を撮ってくれたりしました。そのあたりは、本当に普通でしたね。

トップ選手はずっと前から知っていた、錦織圭の実力

 全米オープンでの勝ち上がりを振り返ると、4回戦のミロシュ・ラオニッチ(カナダ)戦がターニングポイントだったと思います。あそこで勝ったことで、グッと自信がついたように見えました。あの試合では、ラオニッチのワイドに逃げていくサーブをどう攻略するかがカギだと、ずっとコーチたちと話していたそうです。たとえエースを決められても気にせず、我慢強くワイドのサーブを追って行けという指示があったと聞きました。そして実際に試合で、そのメンタルを持続できたことが、「行けるんだ」と感じられた契機ではと思います。

 全米オープンでの彼は全体的に、「ここで崩れたらダメだぞ」いう場面で踏ん張っていました。耐えどころで、しっかりと耐えていたと思います。準決勝のノバク・ジョコビッチ(セルビア)戦でも、ジョコビッチのほうが耐えられなくなって、先に投げてしまう場面がありましたよね。ジョコビッチは本来、粘り強いナダル相手にも苦しい打ち合いを長時間できる選手なんです。そのジョコビッチが、押し返せなかった。錦織選手が完全に打ち勝っていましたね。

 それに、体力的にも負けていませんでした。もしかしたら、自分から展開するテニスだったからこそ、4時間という長時間でも耐えられたのではないかと思います。自分から作って展開して支配する4時間と、我慢して拾って拾って……という4時間では、同じ長時間でも疲れ方が違います。ジョコビッチ相手に攻め勝てたら、「できるじゃん!」と自信になり、さらに気分的にも乗れたのでしょう。

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