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神尾米が語る「クルム伊達が見せたダブルスの極意」 (2ページ目)

  • スポルティーバ●構成 text by Sportiva photo by AFLO

 この「ボールから逃げない」ということに関して、伊達さんは本当にしっかりしています。相手がポーチに出てくると、トップクラスの選手でも怖がり、顔をそむけ、身体が横や後ろを向いてしまうことも多いんです。でも、伊達さんは、逃げない。しっかり相手の動きを見ているから、ボレーが来ても対応できています。そのための準備もしっかりしていて、練習でもコーチの中野陽夫さんと、至近距離でボレーの打ち合いをしているのをよく見かけます。

 それから伊達さんは、前衛の時に立つ位置が独特で、グッとコートの内側に寄るんです。すると、ポーチには行きやすいですが、逆にストレートで抜かれやすくなってしまいます。でも伊達さんは、常にストレートもカバーしている。ほんの少しフェイントを掛けながら、常に相手にミスさせることを頭に入れていると思います。ストレートをカバーしつつも、ポーチに行くタイミングを狙っている――。その判断が、伊達さんは本当に素晴らしいと思います。

 この判断の良さが、ダブルス選手としての伊達さんの最大の強みでもあります。基本的にダブルスでは、例えば自分が前衛にいる時は、相手の後衛が打つ瞬間まで、その人が自分の「敵」になります。でも、後衛が打った瞬間、敵が変わる――。自分がポーチに行けないと分かった瞬間に、今度は相手の前衛が自分の敵になるのです。そうなると伊達さんは、もう相手の後衛のことなんて考えていません。自分が今戦うべき相手のほうに、グッと身体の向きも変わります。その切り替え、判断のスピードと正確さがすごいんです。

 また、相手がポーチに出てきても、伊達さんは下がりません。普通は、自分がポーチに出られない場合は、相手のポーチに備えて下がります。そして相手の後衛が打つ時は、ポーチに備えて前に出る。そういった前後の動きがあるのですが、伊達さんの場合は、その動きが小さいんです。自分の身体の正面を、その時々の「敵」の方向にキュッキュッと向けて行きます。それは、ダブルスの基本ではあるのですが、普通の場合は混乱してしまうんですね。誰が勝負すべき相手か分からなくなり、「ふたりを相手にしよう」と思ってしまいがちになります。でも、本当の勝負は1対1なので、伊達さんはそこの判断を間違いません。

 前後の動きが少ないというのは、無駄な動きがないことであり、体力を温存する効果もあるでしょう。もしかしたらそれも、伊達さんがシングルスとダブルス両方を戦い切れる要因のひとつなのかもしれません。

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