「もう終わった」の声を一蹴。フェデラーはまだ進化していた! (3ページ目)

  • 内田暁●文 text by Uchida Akatsuki photo by AFLO

 それにしても、現存するあらゆる記録やタイトルを手中に収めたと思えるフェデラーが、32歳になった今も、なぜ変革を恐れず上を追求し走り続けられるのか?

 その謎は、ファンのみならず、似た境遇にいた元選手たちの頭も悩ませているようだ。

 グランドスラム獲得通算14回の記録を持ち、フェデラーの「憧れ」でもあったピート・サンプラス(1988年~2003年/アメリカ)は、自身が32歳でツアーを退いた理由を、「体力よりもメンタルが疲れた。常に旅を重ねる生活が精神的に辛かった」と述懐している。その上で、彼はこう告白した。

「だからこそ僕は、ロジャーがなぜ、今もあのレベルでプレイできているのか不思議なんだ。彼は明日にでも、自分のキャリアに胸を張ってこの競技から離れられるはずなのに……」

 そんなサンプラスの問いへのヒントを、フェデラーは今大会の準決勝後に口にしている。

「現役を続けていくために一番大切なのは、競技に対する『愛』だと思う。好きでなければ、ツアーはあまりに辛いものになってしまうだろう。だから実際のところ、僕にとってテニスを続けるのは、難しいことではないんだ。僕は、どうしてテニスをやっているのか、良く分かっているからね」

 今もフェデラーを走らせるもの――、それはテニスへの変わらぬ愛情や敬意だという。思えば彼ほど、テニスという競技そのものへの純粋な情熱を口にしてきた選手も珍しい。

 フェデラーはエドバーグをコーチにしたとき、「子どものころのアイドルをコーチにできるなんて、夢のようだ」と言い、「ステファンと食事をしながら、彼が現役時代の話などもいろいろと聞いたんだ」と少年のように目を輝かせた。

 フェデラーは、多くの試合を見ることでも有名だ。男子のみならず、女子やジュニアにも目を向け、「あの選手のプレイが好きなんだ」と無邪気に称賛することも珍しくない。

 また彼は、テニスが有する伝統にも敬意を表する。ビデオ判定を用いる「チャレンジシステム」の導入に最も大きな声で異論を唱えていたのも、フェデラーだった。「線審や主審への敬意が薄れる」というのが彼の危惧であり、競技から「人間臭さ」が消えてしまうことを憂慮したのだろう。

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