2度目の全仏V。マリア・シャラポワを影で支えた日本人の存在 (4ページ目)
だが、そのような苦闘の中でも、「クレーシーズンでは、結果が出せるはず」との手応えを、中村は密かに掴んでいた。2012年から格段に進化した、「滑るようにスライドしながらボールを打つフットワーク」は、2年間に渡る体幹強化と下半身の安定により、さらなる成長を遂げている。「彼女のボールを打つ能力に、スライドのフットワークが加われば、鬼に金棒だ」との確信が、中村にはあった。
そのような中村の確信を、誰にも増して痛感したのは、全仏決勝の対戦相手となったシモナ・ハレプ(ルーマニア)かもしれない。ハレプはフットワークの良さとミスの少なさ、そして何より、コートの空間を3次元にフル活用する戦略性の高さで、世界ランキング3位まで駆け上がってきた選手だ。そのハレプが、決勝戦後にこのような感想をもらしている。
「私は、しっかりとした戦術を持って試合に入っていた。アングルショット(※)を使い、オープンコートも作っていけた。それに、ボールも強打できていた」
※アングルショット=基本的にはトップスピンで角度をつけてボールを返球するショット。
「でも……」と、準優勝者は続ける。
「シャラポワは、ものすごく動きが良かった」
30度に迫る暑さの中、3時間2分の死闘を制したシャラポワは、表彰式で勝者の証(あかし)を腕に抱き、万感を込めてこう言った。
「本当にみんなのおかげで優勝できたわ。このトロフィーを細かいピースに分けて、全員に分けられたら良いのに……」
トロフィーを砕くわけには当然いかないが、中村たちには、その言葉だけで十分だろう。輝くトロフィーこそが、チーム全員が心血を注いだ結晶であることを、シャラポワを含めた全員が知っているのだから――。
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