「ふたつの軸」で選手強化。日本テニス界に飛躍の兆し (2ページ目)

  • 内田暁●文 text by Uchida Akatsuki 神仁司●写真 photo by Ko Hitoshi

 ただ、究極の個人競技と言われ、ビジネス面でも選手個々にさまざまな利権が絡んでくるテニスの世界において、組織単位での強化は決して簡単なことではない。なによりもテニスは、最終的には世界各国を1年中転戦する「ツアー」のフォーマットに乗らないことには、選手としての強化と成功は成されない。つまりは、とてつもなくお金が掛かるのである。

 協会が国内の各都市にアカデミーや施設を設け、大規模な選手育成プログラムを展開する国としては、アメリカ、オーストラリア、そしてフランスが代表的。だが、それらの国はいずれも、「グランドスラム大会主催」という究極のドル箱を有している。どこの国でも、真似できるものではない。

 では今回、日本を破ってデビスカップ3連覇を狙うチェコはどうだろうか? チェコのヤロスラフ・ナブラチル監督は、その成功のカギを、「子どものころから選手を育てる、スクールシステムにある」と見る。「チェコには、特にプラハとオストラヴァというふたつの都市に良いスクールがある。そこで優れた指導者たちが、6~7歳の子どもたちを育てていく」という体制で才能の原石を拾い上げ、その中からふるいに掛けられた選手たちを集中的に磨いていく。ただし、ナブラチル監督は、「今は良い選手が多いが、その下の世代が育ってきていない」との悩みも打ち明けた。

 一方、国としての歴史が浅いながらも、近年、多くのトップ選手を輩出しているウクライナやセルビアは、協会主導の強化ではなく、個人レベルで企業や実業家のサポートを受けているのが特徴的。中でも、セルビアの女子スター選手、アナ・イバノビッチ(元世界ランク1位/現在12位)のシンデレラストーリーは有名だ。彼女は14歳の時、栄養ドリンクなどで財を成したスイスの若きビジネスマンの目に偶然止まり、彼の嗅覚によって多大な先行投資を受けた。用具の提供から優れた指導者、そして本人のみならずコーチや家族も世界を転戦する資金......その額は数年間で50万ドル(約5000万円)以上にのぼったというが、のちに彼はイバノビッチのマネージャーとして、それ以上の「払い戻し」を受け取ることになる。活躍の舞台が最終的には世界に至るスケール感と、それに伴う莫大なビジネスチャンス――テニスはふたつの意味で、投資家たちにとって夢のある物件のようだ。

 以上のように、テニス選手強化の成功例には、協会などの組織的な育成と、個人や企業等による金銭的支援という「ふたつの大きな軸」が存在する。ならば、理想的な強化策とは、これらふたつが両立し、かつ縄をよるようにリンクさせて、同じ目的地を目指すことではないだろうか。

 現在の日本のトップ選手たちも、やはりこの両パターンのいずれかによって生みだされたと言えるだろう。錦織は、ソニー副社長やソニー・アメリカCEOを歴任した盛田正明氏の「盛田テニスファンド」によって、アメリカのIMGアカデミー留学のチャンスを与えられた。錦織は自らの成功のカギとして、「若い時に海外に行き、刺激を受けたこと」を真っ先に挙げている。

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