クルム伊達、ダブルスのススメ「いつやるの?今でしょ!」 (2ページ目)
ひとつには、昨年の同時期にダブルスで好成績を残したため、その地位を保ちたいという思いがあったと彼女は明かす。
「昨年のモントレー(4月/メキシコ)とストラスブール(5月/フランス)で優勝しているので、守るべきポイントが多い(ランキングポイントは獲得から1年経つと消滅する)。もしランキングが下がっていたなら、今の状況ではダブルスはあきらめたかもしれません。でも、まだチャンスがあるうちは、出たい気持ちのほうが勝ってしまうんです」
現在のクルム伊達のダブルスランキングなら、グランドスラムを含むほとんどの大会で、本選に出場できる位置にいる。だが、今の地位を守りたいというのは、現状を鑑(かんが)みての判断というよりは、目の前の可能性に掛けるアスリートとしての本能だろう。もちろん、「ダブルスが好きだし、楽しい」との純粋な情熱も、計算度外視で彼女を駆り立てる要因だ。
さらに、クルム伊達の視線は、ダブルスが持つさまざまな効能に向けられ、その想いは日本テニスの未来へと広がっていく。
「ダブルスに出ることは、いろんな意味で必要だと思います」
そう断じるクルム伊達は、ダブルスに出場するメリットのひとつとして、ツアー生活における「潤滑油」としての機能を挙げた。
「ツアーを何年もずっと回っていると、負けが続いたり、ケガすることもある。そういうときにダブルスのような楽しみがないと、早く煮詰まりやすいと思います。あとは、プレイヤーたちとの交流を深められるし、相手を知るチャンスでもあります」
これこそが、世界を転戦する中で、ストレスを軽減して戦い抜く知恵だろう。10代から20代にかけて8年、さらには30代から40代にかけてすでに6年戦っているクルム伊達だからこそ、それらの言葉は重みを持つ。
また、ダブルスを「相手を知るチャンス」と見る視座は、いかにもテニスの妙味を「相手との駆け引き」と捉える彼女らしい。この「チャンス」の意味合いには、さまざまな選手の情報を得られる利点や、親しい選手を増やすと練習相手が得やすいこと、あるいは単純に仲の良い選手が多いほうがツアー生活が心地よい......など、多様な要素が含まれるだろう。実際にクルム伊達は、2008年の復帰以降に勝ち取った5度のダブルスのタイトルを、すべて異なるパートナーと手にしている。彼女が言葉にしたように、多くの選手と組むことでいろいろな相手を知ろうとする向上心や探究心が、パートナーの履歴からもうかがえる。また、これは単なる偶然かもしれないが、それら5人の優勝パートナーとはいずれもシングルスで対戦し、すべての相手から勝利を挙げている点も興味深い。
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