【テニス】前人未到の全仏V8。ナダルが赤土で最強な理由 (3ページ目)

  • 内田暁●文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by AP/AFLO

 さらには、丸太のように太い左腕を振り上げ放つ、スピンショットもナダルの武器。強烈な回転が掛かったボールは食い込むように赤土を捉え、相手の顔の高さまで跳ね上がる。4回戦で対戦した錦織が「ボールが重いし、深いショットが風に乗って、さらに嫌らしいボールになる」と嘆いたのも、この縦回転のスピンが理由だ。

 そして何より、叔父の指導で培った強靭なメンタリティが、時に5時間にも及ぶ苦しい戦いを支える礎(いしずえ)となる。

 ナダルは、言う。「僕は、負けることを恐れているんだ。いつだって、対戦相手には自分を打ち負かす力があると理解している。僕はコート上で、常にすごく集中している。それがこのコートでは重要なんだ。常に良いプレーをし続けるなんて不可能だけれど、そこそこのプレーの時でも、メンタルは100%だった。それが、僕がここで勝てる理由なんだと思う」と。

 また王者は、この9年間に及ぶ戦いとは「苦しみを楽しむことを学ぶ過程」だとも言う。「準決勝(対ジョコビッチ)のような試合は、多くの苦痛を伴う。でも僕は、その瞬間を心から楽しんでいるんだ。僕は苦しみを楽しんでいる。なぜなら、テニスができず苦痛すら味わえないことは、もっと辛いことだから。僕は今年の全豪を、マヨルカの自宅のテレビで見ていた。でも、僕は今、ここに居る。勝利も敗北もこのスポーツの一部で、それは素晴らしいことなんだ」。

 ナダルは昨年の6月から今年の2月に至るまでの約7ヶ月間、ヒザのケガのために完全にコートから離れていた。その辛さを思えば、コート上で味わう肉体的な苦痛はむしろ、喜びだと言うのである。

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