「世界中を探してもひとりもいない」とHCも絶賛。ワイルドナイツ優勝に貢献したSO山沢拓也のディフェンス力 (2ページ目)

  • 松瀬学●文 text by Matsuse Manabu
  • 齋藤龍太郎●撮影 photo by Saito Ryutaro

山沢のうれし涙とマッケンジーの悔し涙

 試合終了、埼玉が18―12で勝った。山沢は泣いた。何度も手で目元をぬぐった。記者席から視線を移すと、あのマッケンジーも泣いていた。うれし涙と悔し涙のコントラスト。勝負はときに残酷な光景をつくる。

 そういえば、この試合のスタッツを見ると、ポジションの違いはあるが、山沢のゲインメーター(ボールを持って走った距離)は「78メートル」で、マッケンジーの「43メートル」を上回っていた。

 山沢は言葉に実感を込めた。

「苦しんでの勝利です。すごく大きな、いい経験になりました」

 経験は宝である。苦しめば苦しむほど、選手はすごみを増していく。山沢は天才肌だが、実は努力も怠らない。練習では自分が納得するまで、黙々とやり続ける。プレースキックの居残り練習でもひたすら、蹴り続ける。

 山沢は変わった。タフになった。たくましくなった。成長の実感は?

「これまでのシーズンと比べて、試合の入り方で、自分らしい入り方を少しずつ見つけられてきたのかなと思います」

 ロビー・ディーンズヘッドコーチ(HC)は、「彼は一流選手です」と言いきる。

「今日のようなディフェンスができるスタンドオフは、世界中を探してもひとりもいない。スピードはあるし、勇気はあるし、ディフェンスのポジショニングもナチュラルです」

課題は、日本代表の本当の一員になること

 山沢は、日本代表候補メンバーに入った。課題を聞けば、名将はこう、言った。

「一番大事なことは、彼が彼自身であり続けること。まずは、チームの本当の一員になることから始めないといけません」

 すなわち、日本代表の戦術を理解し、周りとコミュニケーションをとって連係プレーを学び、仲間からの信頼を得ることである。日本代表は埼玉同様、ワンチームなのだ。

 山沢はこれまで、自分に高い目標設定を置き、それにチャレンジしてきた。ただ、それを公言するタイプではない。来年のラグビーワールドカップ(W杯)フランス大会出場を狙っているのだろうが、その話題を振れば、顔をこわばらせて、こう漏らした。

「そんな先のことはまだ、考えていません。その時になったら、考えます」

 一瞬一瞬、今を"自分らしく"生きる。自身の境遇に最善を尽くすラグビー人生。桜のジャージ(日本代表)の背番号10を着た山沢を見たくなる。

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