2019.10.21

平尾誠二が描いたグローバル化。
日本ラグビーの進む道と可能性を見た

  • 松瀬 学●文 text Matsuse Manabu
  • 齋藤龍太郎●写真 photo by Saito Ryutaro

 このスクラム。左PRの稲垣も、右PRの具智元もレフリーの指示のコールが大歓声で聞こえなかった、と振り返った。具が言った。

「あの時、”セット”のコールがまったく聞こえなくて…。組み直しかと思ったら、そのまま(レフリーに)流されて…。相手のヒットスピードがはやくて受けてしまった」

 ただ、その後、日本FWは踏ん張った。チームのキーワードとなっている『忍耐』で我慢した。世界一といわれる南アのフィジカルに塊となって対抗した。

 だが、セットプレー、ブレイクダウン(タックル後のボール争奪戦)のダメージは、ボクシングでいうところのボディブローのように足腰に蓄積されていったのだろう。後半、FWの動きが鈍った。スクラムの足の位置や姿勢などディテールが崩れた。

 3-5で前半は折り返した。日本が後半最初に得点すれば、ゲームの流れは変わったかもしれない。だが、開始直後の相手ボールのスクラムで押し込まれ、コラプシング(故意に崩す行為)の反則をとられた。PG(ペナルティーゴール)を蹴り込まれた。

 後半8分、足を痛めていた左PR稲垣が、脇腹を痛めていたSO田村とともに交代した。中盤には右PRの具もベンチに退がり、HO(フッカー)堀江翔太も代わった。前半は与えたPK(ペナルティーキック)は2つだったが、後半は6つ。うち2つがスクラムのコラプシングだった。

 稲垣は沈んだ声で振り返る。言葉には悔恨がにじんだ。

「後半のセットピースに対するディシプリン(規律)が勝敗を分けたのではないでしょうか。セットピースはもっともっと向上する必要があると感じます」

 ラインアウトも南アは高くてうまくてパワフルだった。日本の成功率は13本中8本の62%にとどまった。加えて、ラインアウトからのモール。反則を避けるため、どうしても姿勢が高くなる。後半中盤。ずるずると40mほど押し込まれ、結局はトライにつなげられた。勝敗の行方はほぼ決まった。

 それにしても、南アは日本をよく分析し、対策を立ててきた。オフサイドまがいの早めのラインディフェンス、球出しのテンポを遅らせるためのレートタックル気味の寸断、展開阻止。あるいは内側の返しの短いパスにもちゃんと反応されていた。

 結局、日本はノートライに終わった。束となった南アのディフェンスは、あたかもジャージの色であるグリーンの分厚い壁だった。ジョセフHCは「ほんとうにフィジカルなゲームだったと思います」と声を落とした。

「(日本は)たくさんのチャンスをつくった。プレッシャーを相手にかけることができた。でも、それをもの(得点)にすることができなかった。相手のディフェンスがとても強かったと思います」

 この日は奇しくも、日本ラグビーの発展に貢献した”ミスターラグビー”平尾誠二さん(2016年死去、享年53)の命日だった。台風による犠牲者への追悼もあって、日本の選手たちは腕に喪章の黒いテープをつけて戦った。

 試合後、フルバック(FB)山中亮平も泣いた。ひげの育毛剤でドーピング違反となり2年間の資格停止となった時、神戸製鋼を指揮していた平尾さんにラグビー人生を救われた。言葉に実感をこめる。

「平尾さんのところにも(試合が)届くと思って、思い切り、全力でぶつかりました。僕自身、すごく楽しんでできた。悔いはない。やり切りました」