バスケ男子日本代表 ホーバスHCが磨きをかける「速い展開」と若手中心の招集の意図 (2ページ目)
【パリ五輪で証明されたホーバスHCスタイルの強みと課題】
パリ五輪最年少メンバーのジェイコブス晶(中)も引き続き、成長を続けている photo by Kaz Nagatsuka
第1次合宿の選手の平均身長は196.9cmとなっている。パリ五輪でのそれが193.7cmだっただけにかなりの違いだ。ビッグマンには、ホーキンソン(208cm)、狩野富成(SR渋谷、206cm)、 山ノ内勇登(オーラル・ロバーツ大、210cm)、渡邉伶音(東海大、206cm)と206cm以上の選手が居並び、ガード陣も最も身長が低いのが ジャン・ローレンス・ハーパー・ジュニア(SR渋谷、181cm)で、全体的に大きい。
身長196cmながらアウトサイドからのプレーを主とするベテランの馬場は、「今まで代表の練習で同じようなポジションでがっつり自分よりサイズがあって、身体能力が高い選手はそこまでいなかった」と時の流れを感じている様子だった。
代表常連の選手がいないという理由があるにせよ、注目の選手は少なくない。パリ五輪に最年少として出場したジェイコブス晶(フォーダム大)はたくましさを増し、若手のリーダー格となっている。川島悠翔(シアトル大)や渡邉も、やはり昨年と比べて体躯も自信も大きくした印象だ。
今後の代表の強化において比江島の後のSG(シューティングガード)を誰が担うかは課題のひとつとなっているが、それについて問われた際のホーバスHCはPG(ポイントガード)登録の湧川颯斗(三遠ネオフェニックス)の名前を即座に挙げた。
「湧川は面白い。身長は194cm。PGのメンタリティだけどシュートもきれいです。この合宿で、彼に言いました。もっとアグレッシブにシュートをしていいですよ、と。PGとしてはやれていますが、コンボガードになってもっと彼の3Pシュートが見たいです。すごく頑張っていますよ」
福岡大学附属大濠高校を卒業後、大学へ行かずにBリーグ入りしプロの世界で揉まれてきた21歳の湧川自身も、ホーバスHCから中へドリブルで切り込める選手を求めていると聞かされ、「比江島さんのポジションが薄い」とSGとしての意識を高めるようになったという。
公開練習の際には馬場、西田優大(シーホース三河)、テーブス流河(ボストンカレッジ)らが佐々宜央アシスタントコーチの指導の下、スクリーナーを使いつつ、いかにシュート機会を創出するかの練習に取り組む場面があった。今回、合宿に名を連ねるメンバーに比江島や河村のような個で得点機をつくり出せる者は、総じて多くない印象だ。
サイズのなさをチーム力で補うことを基本理念としているとはいえ、個の力で打開できる者もなくてはならない。アジアカップに限らず今後、そうした力量の持ち主を探していくことはかなり重要になるだろう。
ホーバスHCの敷く日本代表のスタイルに大きな変更はないものの、細かい課題の修正の積み重ねが肝要だ。攻守の切り替えを速く行なうトランジションは、サイズで不利な日本にとって生命線となる。
7月1日、日本バスケットボール協会より公開された2024年度日本代表チームの報告書『テクニカルノート』によると、日本のパリオリンピックでの全攻撃に対するファストブレーク(速攻)の割合は大会4位の16.8%と上位で、ホーバスHCも『(2023年の)ワールドカップも(パリ)オリンピックもすごくよかった』と強調してきた速い展開のゲームに対しての手応えを語っている。
ただし得点を効率よく挙げるという点では、改善の余地がある。テクニカルノートでは、ファストブレークにおけるPPP(ポインツ・パー・ポゼッション/攻撃1回あたりの平均得点)では1.022(同9位)と効率よく点を挙げられているとは言い難い数字が紹介されている。
「これからもっとファストブレークを出していきたいです。そういう練習を今、やっています」
ホ―バスHCはこのように話した。
しかし、手駒によって見せるバスケットボールの中身は少なからず変わるということもできよう。
アジアカップのあるこの夏は、日本代表を底上げする選手をいかに見つけられるかというのがひとつの大きなテーマとなる。
著者プロフィール
永塚和志 (ながつか・かずし)
スポーツライター。前英字紙ジャパンタイムズスポーツ記者。
Bリーグ、男女日本代表を主にカバーし、2006年世界選手権、 2019W杯等国際大会、また米NCAAトーナメントも取材。 他競技ではWBCやNFLスーパーボウル等の国際大会の取材経験 もある。著書に「''近代フットボールの父'' チャック・ミルズが紡いだ糸」(ベースボール・マガジン社) があり、東京五輪で日本女子バスケ代表を銀メダルに導いたトム・ ホーバスHC著「ウイニングメンタリティー コーチングとは信じること」、川崎ブレイブサンダース・ 篠山竜青選手 著「日々、努力。」(ともにベースボール・マガジン社) 等の取材構成にも関わっている。
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