パリ五輪・女子バスケ日本代表入りへ挑む町田瑠唯 「焦り」と「楽しみ」が同居する胸の内は (2ページ目)
【東京の時よりは違う感覚で戦えるんじゃないか】
恩塚HCのスタイルに対応していくことが生き残りへのカギにこの記事に関連する写真を見る これまで代表合宿には招集されながらケガで今の代表のスタイルを体に染み込ませる機会を逸し「焦り」があると、町田は不安を隠さなかった。
世界の強豪に比べて小柄な日本代表チームは、サイズの不利を補うためにスピードと3ポイントシュート、粘り強いディフェンスで対抗する恩塚HCのチームでは、選手たちは刹那の瞬間で判断しながら流動的に動き続けることが求められる。その複雑さは反復練習と試合の経験を重ねることで乗り越えられる部分も大きく、それだけに町田の「出遅れ」は否めない。
もっとも、町田もそこに対して虚勢を張るつもりなどない。Wリーグでアシスト王とベストファイブをそれぞれ7度受賞してきた彼女は、このチームのスタイル習得について率直な思いを述べた。
「すごく頭を使うし、ディフェンスの動きによってこっちがアクションをするというのがメインになってくるので、その理解がすごく大事なんだなと思っています。ディフェンスをされた時にこういう選択ができるというのを5人全員がしっかり理解しないと得点につながらないので、そこをすり合わせていくのも結構、難しいなと感じています」
5人が連動して動く恩塚HCのチームでは、ポイントガードにも得点力が必要となる。自身の得点よりもまずは味方を生かす意識の強い「パスファースト」の町田が、どこまでそこに順応できるか。一方で、22年のワールドカップで1勝4敗と惨敗してからの日本代表は、人とボールをいかに停滞させないかを大きな課題のひとつとしてきた。日本ではほとんど唯一無二のパスセンスを持つ町田が攻撃の流動性を担保する武器となる可能性も、大いにある。
スタッフとしてリオ、東京と過去2度のオリンピックで町田を見てきた恩塚HCも、稀代のパサーへの期待感を隠さない。
「周りを生かすというのが一番、彼女の強みになる。判断の速さとパスの正確さには特別な力があると思っています」
東京オリンピックで町田がまばゆい光を放ったことについては冒頭で触れたが、ホーバスHCによれば大会の1カ月前の強化試合の段階で、チームのポイントガード陣での町田の序列は3番目だったそうだ。だが、そのままでは本番のメンバーには残れないと同指揮官からハッパをかけられた町田は奮起。失っていた自信を取り戻して、大会では正ポイントガードとして世界を驚かせるプレーをするに至ったのだ。
その時と状況はまったく違う。しかし、オリンピックを前にしてポジションが保障されていない部分は、似ていなくもない。あるいは「出遅れた」町田が再び12名のオリンピックロスター入りを果たして本番のコートを走り回るか......と考えるのは現段階でもまだ早計だろう。
パリオリンピックの初戦。日本は、東京の決勝戦で当たったアメリカと対戦する。目標に掲げてきた金メダル獲得に手をかけるところまできた日本だったが、日本を研究していたアメリカのディフェンスの前に町田はパスの出しどころを制限され、"わずか"6アシストを記録するにとどまり、敗れている。
そのアメリカと再び、対峙するかもしれないが、と問われると、町田はこう語った。
「相手はアメリカで一緒にやったり、対戦したりしてきた選手たちなので、東京の時よりは違う感覚で戦えるんじゃないかなとは思います」
町田にしては前向きな言葉だが、自信を持って臨めるかと追い打ちで聞かれると、やはり町田は町田で、するりと記者の意図をすり抜けた。
「自信を持ってというか......楽しみだなっていう感じですね」
いずれにしても、町田が今の日本代表にどれだけ割って入ってこられるかは、これから徐々に見えてくる。
日本の女子バスケットボール史における屈指の「パスの魔術師」は、はたして自身3度目のオリンピック出場を叶えられるか。
著者プロフィール
永塚和志 (ながつか・かずし)
スポーツライター。前英字紙ジャパンタイムズスポーツ記者。
Bリーグ、男女日本代表を主にカバーし、2006年世界選手権、 2019W杯等国際大会、また米NCAAトーナメントも取材。 他競技ではWBCやNFLスーパーボウル等の国際大会の取材経験 もある。著書に「''近代フットボールの父'' チャック・ミルズが紡いだ糸」(ベースボール・マガジン社) があり、東京五輪で日本女子バスケ代表を銀メダルに導いたトム・ ホーバスHC著「ウイニングメンタリティー コーチングとは信じること」、川崎ブレイブサンダース・ 篠山竜青選手 著「日々、努力。」(ともにベースボール・マガジン社) 等の取材構成にも関わっている。
【写真集】町田瑠唯、3年ぶりの女子バスケ日本代表合宿
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