「普通じゃない」富樫勇樹のタフさとその理由 千葉ジェッツのヘッドコーチも驚き「試合が終わってもダッシュをしている」 (3ページ目)
【年齢不問で試合好きの少年】
富樫は、バスケットボールが好きだ。もっと言えば、バスケットボールの試合に出ることが好きだ。
まだ世界が新型コロナウイルスの渦中にあった2020−21シーズン。千葉は春先に同ウイルスの影響で試合が延期となってしまい、延期分がシーズン終盤に押し込まれた形となった。ただでさえ試合数の多いBリーグのスケジュールの中で富樫は、その連戦を「これくらいの日程のほうが好き」と言ってのけた。
試合の間が狭くなればそれだけ対戦相手の対策とそれを踏まえた練習の時間は十全には持てなくなる。だが、富樫に言わせれば「ウォークスルー(戦術等の確認のための立ち稽古)をしてもその通りになることはほとんど」なく、試合の中で「状況を見て判断するしかない」。そのように考える選手は少なくないかもしれないが、ここまで断ずる物言いができるのは、実力と実績を兼備する富樫ならではと言えるかもしれない。
30代に入った富樫だが、今シーズンはここまで、Bリーグでのキャリアで最多となる平均32分11秒(B1 リーグ6位)の出場時間を記録している。天皇杯決勝では31分以上プレーし、早い段階で点差がついていたにもかかわらず、試合時間残り3分を切るまでベンチに下がることはなかった。
「普通じゃないですね」
疲れ知らずのエースをどう見ているかを問われた千葉のジョン・パトリックヘッドコーチは、そのように答えて記者たちをクスリとさせた。
「試合が終わってもダッシュをしているし、勝負が大好き、かつ勝負強い選手だと思っています。決勝戦も集中して全力を出してくれるというのは、コーチとしても助かりますし、大事な試合に強い。ウィニングアチチュード(勝者の態度)を持っていると思います」
前述した富樫の「これくらいの日程のほうが好き」という言葉。実は文章はこれだけで完結したわけではない。実際は、屈託のない笑顔をたたえながらこう述べたのだった。
「これくらいの日程のほうが好きですね。あまり練習をしなくていいので」
練習をしなくていい――。ほかのBリーグの選手からは出てきそうもないセリフだが、これも富樫だからこそ、彼独特のメンタリティだからこそ、出てくる発想か。
富樫勇樹とは、試合数は増えてもマイレージは溜まらない男なのである。
著者プロフィール
永塚和志 (ながつか・かずし)
スポーツライター。前英字紙ジャパンタイムズスポーツ記者。
Bリーグ、男女日本代表を主にカバーし、2006年世界選手権、 2019W杯等国際大会、また米NCAAトーナメントも取材。 他競技ではWBCやNFLスーパーボウル等の国際大会の取材経験 もある。著書に「''近代フットボールの父'' チャック・ミルズが紡いだ糸」(ベースボール・マガジン社) があり、東京五輪で日本女子バスケ代表を銀メダルに導いたトム・ ホーバスHC著「ウイニングメンタリティー コーチングとは信じること」、川崎ブレイブサンダース・ 篠山竜青選手 著「日々、努力。」(ともにベースボール・マガジン社) 等の取材構成にも関わっている。
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