「普通じゃない」富樫勇樹のタフさとその理由 千葉ジェッツのヘッドコーチも驚き「試合が終わってもダッシュをしている」 (2ページ目)

  • 永塚和志●取材・文 text by Kaz Nagatsuka

【紆余曲折を経て辿り着いた「遊び」の境地】

「こう言ったらちょっと変なんですけど」

 リーグ戦、天皇杯、EASL、日本代表と異なる大会、試合が続く中でどう切り替えをしているのかを問われた富樫が、こう口を開いた。

「僕ももちろん、真剣にプロ選手として責任を持ってコートに立っていますけど、やっぱり心のどこかで本当に楽しくプレーしているというか。小学生の時に公園に遊びに行くような気持ちをまだ持っていてプレーをできているので、そういう意味ではシンプルに自分の好きなことを楽しくできている部分が大きいかなと思います」

 そんな富樫の言葉を聞いていて改めて彼のプレーぶりに人々がなぜ魅了されるのか、その理由の一端がわかる気がする。

 鬼さんこちら手の鳴るほうへ――。富樫がコート上で見せるプレーはいわば、これではないか。ドリブルで相手を右に左に、前に後ろに揺さぶりながらシュートの機会を作りだす様は、公園で鬼ごっこでもするかのような遊びの部分を感じさせるのだ。

 遊びだから体が緊張せずによく弛緩した状態でドリブルがつけるし、シュートも打てる。富樫の試合を数多く見ている人ならわかるだろうが、これまで彼が「それを決めるの!?」というシュートを何度決めてきたことか。精神的な遊びの部分がなければ、できないことであるはずだ。

「遊びだ」というところを強調しすぎると、誤解を生んでしまいそうなのでつけ加えるが、富樫がコートに立ち続けるのは若い頃の経験も基となっている。

 アメリカの高校に進学した当初は、言葉の壁などもあってあまりに異なる環境に置かれたことで試合に出たくないと思う時期があった。また、Bリーグ設立前に千葉に加入した際には、多くの出場時間を得られないという悔しさも味わった。

 Bリーグ初年度から毎年ベストファイブに選ばれMVPも獲得(2018年)するなどの成功を収めてきた彼にも、ほかの多くの選手たちと同じように、長いキャリアを見渡すと山だけでなく谷の時があった。それをバネにしてきたところについては、彼も否定はしない。

「すべての経験が生きているかなと思います。試合に出られなかった経験があるからそういう立場のチームメートの気持ちもわかります。去年の(琉球とのファイナルで)負けなど今までの悔しかった気持ちを強く持ってプレーをしているので、(楽しさと悔しさの)バランスなのかなと思います」

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